第34話 カクテル
「何か飲みますか?」
僕はカウンターにやって来た宮崎と菅野に
声をかけた。
菅野は六条のグラスにチラリと視線を投げると、
「へぇ、勇気があるわね」
と意味深な笑みを浮かべた。
六条が慌ててグラスを置いた。
僕はコホンと咳払いをして、
ポケットから1枚のカードを出すと
それをカウンターに置いた。
「すみません。
もっと早く出せば良かったんですが、
タイミングがなくて・・」
僕は素直に頭を下げた。
3人の視線がカードに集中していた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「『クラブの6』か・・」
宮崎がポツリと呟いた。
「ま、そういうことなら。
アタシは何か甘いモノを
作ってもらおうかしら」
「はっ。
現金な女だな」
ゲームに負けた宮崎は虫の居所が悪そうだった。
「ふんっ、何とでも言いなさいよ。
それより。
負けた分の支払いはしてもらうわよ」
「生きてここから帰ることができたら
いくらでも払ってやる」
そう吐き捨てると
宮崎は「チッ」と舌を打った。
「こちらは『クレオパトラ』です」
僕は菅野の前にグラスを置いた。
菅野は濁った茶褐色の液体を
まじまじと眺めてからこくりと一口飲んだ。
それからゆっくりとグラスを置くと、
「アタシが犯人なら
さっきの毒で皆殺しにしてるけどね」
と恐ろしいことを言った。
宮崎がゴホンゴホンと咳き込んだ。
それから六条のグラスを顎で指してから
「同じものを」
とぶっきらぼうに答えた。
「・・怖い話をしていますね」
その時、
開いたドアから顔を覗かせた佐藤が
車椅子を器用に操作しながら入ってきた。
彼女はカウンターの横の
小さな丸テーブルまでくると
「鈴木さん、
私にもアルコールの入っていない物を
お願いできませんか」
と言って部屋を見回した。
「西岡さんは・・お部屋ですか?」
「そうだろうな」
宮崎が興味なさそうに答えた。
「もしかして死んでたりして?」
菅野の言葉に一瞬で場が静まり返った。
「こちらは『シンデレラ』になります。
オレンジ、レモン、パイナップルを
ミックスしたノンアルコールカクテルです。
僅かな酸味がすっきりとした
味わいになっています」
僕は場の空気を変えるため
努めて真面目にそれでいて明るい声を出した。
「わぁ、綺麗な色ですね」
少女はまじまじとグラスを眺めてから
そっと口をつけた。
「うん、すごく美味しいです」
そしてにこりと微笑んだ。
堕天使の微笑みを見て、
僕は胸の辺りがズキッと痛んだ。
「一応、
皆様にお伝えしておこうと思って・・」
続けて少女は真顔でそう呟いた。
「厨房にあったキッチンバサミが1つ、
なくなっています・・」




