第33話 遊戯室
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
僕と六条はバーカウンターに座って
ダーツに興じている菅野と宮崎を眺めていた。
「こ、こんな時にダーツなんて・・。
わたしはとてもそんな気分にはなれません。
かと言って部屋に一人でいても
安心できませんし・・」
六条は「はぁ・・」と溜息を吐いた。
「何か飲みますか?
こう見えて
昔バーでアルバイトをしていたんですよ」
僕は立ち上がってカウンターの裏に回った。
アルコールは気を紛らわせるのに
絶大な効果を発揮する。
大人は酒に溺れる。
仕事や家庭でのストレスを忘れるために。
「・・そ、そうですね」
六条はやや硬い表情で僕の方をチラリと見た。
それから彼女は「ふぅ」と小さく息を吐くと、
「ま・・『マティーニ』をお願いできますか?」
と躊躇いがちに答えた。
「かしこまりました」
僕は畏まってやや大袈裟に頭を下げた。
六条の表情が微かに和らいだ。
改めて目の前の未亡人を観察すると、
地味ながらも
整った顔立ちをしていることに気付いた。
40代であるという僕の見立ては
間違っているのかもしれない。
30代でも十分に通用すると思えた。
化粧をすれば案外あっちの娼婦よりも
美しくなるのではないか。
もしこれで本当に未亡人なら
言い寄ってくる男は数知れず、
というのは言い過ぎか。
「こ、こんなことなら。
あんな脅迫状、
無視しておけばよかった・・」
六条はそう呟いてからグラスに口をつけた。
「脅迫状?」
「あっ・・
い、いえ・・。
深い意味はないんです。
こんなことになったから、つい・・」
そして六条はマティーニを
こくこくと流し込んだ。
その時。
「アタシの勝ちぃぃ!」
という菅野の甲高い声が聞こえた。
声の方へ目を向けると
両手をあげて喜びを表している娼婦と
その隣で顔を真っ赤にして悔しがっている
老豚の姿が見えた。




