第29話 乾杯
食堂の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「一先ず。
今はゲームのことは忘れて
この素晴らしい料理を
食べようではないか!
乾杯っ!」
宮崎のひと際大きな濁声が食堂に響いた。
僕は水の入ったグラスを持ち上げた。
この状況でアルコールを口にする気には
なれなかった。
僕と同じように
西岡も水の入ったグラスを掲げた。
高校生の佐藤も当然に水だった。
平原の手のワイングラスには
自身で選んだ赤ワインが注がれていた。
その姿はまさに生き血を啜る魔女のようだった。
宮崎と六条そして菅野の3人は
ビールの入ったジョッキを手にしていた。
今、この瞬間だけを見れば
どこにでもある晩餐会
と言えなくもない。
だが実際は・・。
ガシャン!
その時ガラスの割れる音がした。
音のした方へ目を向けると
魔女が苦悶の表情を浮かべて喉を押さえていた。
次の瞬間、
平原の口から
「ぐぇぇぇっ」
という奇妙な呻き声が洩れた。
そして彼女は椅子から崩れ落ちた。
「いやああああああああぁぁぁ!」
一瞬の後、
六条が耳を劈くような甲高い悲鳴をあげた。
同時に西岡が椅子から立ち上がって、
素早く平原の方へ回り込んだ。
宮崎はジョッキを持ったまま
固まっていた。
菅野は両手を口元に当てて目を見開いていた。
僕は右隣の佐藤を見た。
彼女は目を閉じて祈るように手を合わせていた。
「・・死んでる」
西岡の言葉が食堂に響いた。
それは死神の死亡宣告だった。
そしてその言葉は非現実的でありながらも、
この場の空気に何の抵抗もなく浸透していった。
「う、うそ・・」
六条が小さな声で呟いた。
僕は震える足で立ち上がると
西岡の許へ駆け寄った。
それから西岡の背中越しに覗き込んだ。
床に倒れている平原の姿が目に飛び込んできた。
魔女の真っ白なドレスが赤く染まっていた。
それが赤ワインなのか
それとも魔女の血なのか、
僕には区別がつかなかった。




