君
波打つ砂浜で君の影を見つめていた。
砂と波がぶつかり合い、燃えるような夕日が僕らを照らしている。
潮風に髪がなびく、そして彼女は深呼吸をして叫んだ。
「大っ嫌い‼️」
僕は驚き少し肩をビクつかせたが、すぐに同じように叫んだ。
「僕も大っ嫌いだ‼️」
彼女はびっくりしていた。それもそうだ、いきなり後ろで知らない人に同じように叫ばれたら誰だって驚くだろう。
驚いた顔をした彼女をよそに僕は彼女の隣まで歩く。
「あなたは誰?」
そう彼女は聞いてきた、そして僕は答える
「何者でもないよ」
彼女は妙に納得したような顔をして、再び海へと視線を戻した。
僕も一緒に2人で海を見つめた、永遠の時に閉じこもるように。
(少し落ち着いた頃)
「君はこれからどうするの?」
そう彼女は聞いてきた
「どうしたらいいんだろう、帰りたくはない」
そう僕は3日ほど家出をしていたのだ。
「君は?」
そう聞き返すと、君は少し寂しそうに微笑んだ
「私にも帰る場所がないわ、私はひとり、親も友達も先輩も先生も、みんな大嫌い」
そう言った君を見つめてみる
「美しい…」
自然と口からこぼれた
「ふふっ…」
彼女の口からも笑みがこぼれた
「何それおかしいね、私たちさっき出会ったばっかりなのに、でも嬉しいかもね」
そう言うと、君は僕の手をそっと握ってきた。
僕はそれを拒絶せずに彼女と手を繋いだ。
「君は大丈夫だよ、ひとりじゃない」
日が沈んできて影が闇に飲み込まれていく。
肌寒くなってきた、まるで海に飲まれるように夜の波に飲み込まれた僕たちはゆっくりと歩き出した。
夜の暗闇の中はまるで深海にいるようだった。