第99話 炊き出し方針
炊き出しに対するとりあえずの方針はこうだ。
メニューは日によって変えるが水で嵩増ししたスープや粥などの簡単な一品物。
昼夜を問わず交代制で調理を続けて列に並んで順番が来たら食べられる。
お代わりをする場合は並びなおし。
怪我や病気など何らかの理由で列に並べない人の元には『半血』と流民が組んでつくる専門の班が配達する。家族や知人が持ち帰ることは許さないが配達班への同行や道案内は推奨。持ち帰りを許さないのは途中で他の流民による強奪被害を避けるため。列に並べない人へは配達班が継続的に配達する。
いずれ炊き出しが強奪をするまでもなく食べられると流民たちが安心したタイミングで持ち帰りも認める。
列への横入りや喧嘩などのトラブルを防ぐため『半血』と流民共同で列の整理を実施。
あわせて列に並ぶ人から聞き取りを行って名簿を作成する。現在の流民街をブロック分けして今どこに住んでいるかや過去にいた町や村、家族構成なども聞き取る。
当面は夜間も炊き出しを行うが流民の飢餓状態の落ち着きを待って、いずれ日中のみの実施とする。炊き出しに流民を参加させて徐々に増やしていき調理兵の負担を減らす。
それと忘れてはいけないのが、なぜ『半血』が国都の包囲や炊き出しを行うかの説明だ。
今まで教会は獣人や『半血』のせいでアルティア神聖国内の食料がなくなったという教育をしてきたが、そのような事実はなく、犯人扱いされた『半血』が国民を飢えから救うために立ち上がったというストーリーを、列に並ぶ人たちに対して繰り返し言い聞かせる。
ぼくが特に気にかけたのは『半血』と流民の関係が険悪にならないこと。
だから配膳を行ったり、配達や列の整理という直接流民と接触する機会が多い『半血』隊員には、なるべく話好きだったり人当たりがいい人を配置してもらう。逆に流民側も同じで『半血』と班を組む流民の人は獣人に対して拒否感のない人を選んでもらう。
アルティア教国がアルティア神聖国になる以前は国内にも獣人が普通に住んでいたことから、比較的、老人は獣人への拒否感を持ち合わせていないみたいだ。
とはいえ傭兵や軍隊という存在自体が暴力的で怖いという思いはあるらしい。『半血』隊員には、なるべく親しみやすく振舞ってもらおう。
ぼく自身は特定の役割は持たずに『半血』と流民の橋渡し役として適当にふらふら見回りをする担当だ。何か問題があった場所に首を突っ込む。
流民のリーダー格には他にもいる流民に顔が利く人たちと情報を共有し食料不足に対する教会と神聖国の隠された真実を流民たちの共通認識としてもらうようお願いした。食料不足は単純にアルティア神聖国の失政だし、そもそもアルティア教会は嘘つきだ。獣人も『半血』も悪人じゃない。
一方、ズルをしたり喧嘩をするような流民に対しては『半血』が手を下して逆恨みされることがないよう、なるべく流民自ら厳しく取り締まってもらうようにした。そのあたりの段取りは流民のリーダー格にお願いする。
トラブルを起こした人にも食事は与えるけれども罰として肉体労働についてもらう予定だ。
具体的には地図に記しただけのアルティアベルトの位置を明確にするため、国都の南北の壁から直線になるように見通して概ね十メートル程度の間隔で地面に幅杭を打つ仕事だ。障害物があったら間隔をずらして、地面が硬くて杭を打てない場合は土を盛ってから杭を立てたり代わりに目印になる物を置く。
アルティア神聖国が今後どうなるとか現在王国とも戦争中といった事実は流民たちにはまだ知らせないけれども事前の準備を罰兼公共事業として実施することにした。
もちろんそれだけでは手が足りないので幅杭設置は『半血』の主任務として各部隊が交代で実施する。
その他、細かいことは実施後に色々出てくるだろうから、その都度調整を行っていく。
ぼくは炊き出しをきっかけにして流民たちが『半血』への嫌悪感を無くして王国でのぼくたちと獣人の関係みたいに終戦後も普通に接してくれるようになってほしいと願っていた。
同じ釜の飯を食って仲間になるんだ。
そうなるといいな。