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第91話 降伏見込み日数

 マリアが、ぼくたちを席に誘導した。


 会議テーブルを囲んで、ぼくたちは椅子に座った。


 ヘルダがお茶を出してくれた。


「何にせよ、みんな無事で良かった」


 ぼくは深く安堵の息を吐いた。


「もう、あたいと会えないと思って胸が痛んでたか?」


 うり、とルンがぼくの右脇腹を小突いた。


「自分の本当の気持ちに気づいちゃったとか?」


 当たり前のように、ルンは、ぼくの隣に座っていた。


 マリアとヘルダが対面、ぼくを挟む形でルンの逆隣りにジョシカだ。


「そうですね。ルンさんは死んじゃったと思ってました」


「な!」


 ルンは呻くような声を上げた。


「あたいがそう簡単に死ぬわけないだろう!」


「あなたが一番馬鹿な無茶をしそうです」


 ルンは、ぷっくらと頬を膨らませた。


「違いない」とヘルダ。みんなで笑った。


「それよりニャイとはどうなったんだ? 本当は、あたいに慰めてもらいにきたんだろ?」


 ルンが仏頂面で訊いてきた。


「慰めてほしいと言えばほしいんですが」


 ぼくは、オーク集落でみんなと別れてからの経緯を話した。


「いつになったら居留地に行けるかわからなかったので王国の人の誘いにのって一緒にきちゃいました。すみません。でも居留地まで行かないで会えて良かった」


 ぼくは王国の斥候を連れてきたことをマリアに謝った。


「いずれ王国とは接触しなければと思っていたからな。もし軟禁されているならば君が駆り出される可能性は大だとも考えていた。心配してくれて嬉しい」


 マリアが答えた。


「ヘタレめ」と、ルンが吐き捨てるように言ったがそこはスルーだ。


「王国はアルティア神聖国が宣戦布告をしたのに攻めてこないから不思議がっています。『半血(ハーフ・ブラッド)』が居留地の独立を宣言したと聞いて静観すべきか共闘すべきか現地の様子を探って判断するため面識があるぼくに顔つなぎの役割が回ってきました」


「王国への宣戦布告は軍部ではなく教会の暴走だろう。建前上、神聖国と教会は別物だが、神聖国の各種重要ポストには教会からの出向者が就いている。軍のトップもそうだ」


 ぼくはオーク集落で出会ったアルティア兵の指揮官クラスには、特に腹がたるんでいる人たちが多く見受けられた事実を思い出した。彼らが教会からの出向者だったのだろう。


 ぼくが案内をした副隊長は軍属で、出遭わなかった隊長が教会の人間らしい。副隊長が実質的な意味での部隊の司令官だ。


「アルティア神聖国から『半血(ハーフ・ブラッド)』に対して王国戦で肩を並べるよう要請はあったが終戦見込みまでには居留地の契約期間が切れるだろうからと断った。教会は契約を続けたい私たちが折れるに違いないと先走り、軍隊は私たちに先駆けをさせるつもりだから自分たちは動かず、結果的に宣戦布告だけが宙に浮いた形になったのだろう」


「それでこっちの戦争は今どういう状況ですか。アルティア神聖国からの降伏待ち?」


「そうだ。門を閉じて籠ったまま誰も出て来ようとはしない。『長崖(グレートクリフ)』にいた部隊が戻ってきて一度だけ戦闘になったがオークとすら満足に戦えない奴らが私たちの相手になるわけもない。散り散りに逃げて行ったよ」


「降伏までの見込みの日数はどれくらいですか?」


「一ヶ月か三ヶ月か半年か。オーク集落の時と同じで教会は私たちとは会話したくないそうだ。交渉窓口が機能していないから奴らが完全に音を上げるまで当面このままだな」


「冬が来ますね。もっと早まらないでしょうか?」


「力づくで門を破ろうとして被害を出すのは馬鹿らしい。時間がかかっても安全策だ」


「ここに来るまで国都に着けば教会の炊き出しが食べられると思っていました。アルティア神聖国内はどこも廃村ばかりで一緒に来た家族は芋虫が主食でした。流民たちもオークみたいな食生活をしているから、このまま冬を越せるとは思えない」


 冬が来れば壁の外の流民たちは弱った者から亡くなっていくだろう。壁の中の一般市民とて同じかも知れない。壁の中にどれくらいの量の食料の備蓄があるのか分からないけれども一部の特権階級以外に十分な食料が配られるとは思えなかった。残された者が生き残るためにはオークと同じ食生活をおくってでもしのぐしかない。


 魔人の定義って何だったっけ?

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― 新着の感想 ―
 例えそれが極限状態でのやむにやまれぬ判断の上だったとしても、同胞の肉体を口に入れた瞬間に「魔人」となるか。  しかも宗教的な教義が追い打ちをかける、と。  中々にエグい状況ですねぇ。
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