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第90話 元通り

 結局、アルティアの後継者には契約にも立ち会ったアルティアの弟子の一人がなり、その後継者には弟子の弟子の一人がなり、またその後継者には弟子の弟子の弟子の一人がと受け継がれていったが、いつからか弟子ではなく息子がなり孫がなるように変化した。


 その頃にはアルティアの教えはアルティア教国のみに留まらず広く世界のあらゆる場所あらゆる階級の裸猿人族(ヒューマン)たちに広まっていた。


 アルティア教国には多くの裸猿人族(ヒューマン)が移住し、『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地外への半獣人の定着は進まなかった。


 いつしか王や貴族といった特権階級のない国を目指したはずのアルティア教国は変貌し教会という特権階級、さらには大教皇という特権の頂点が形作られた。


 大教皇は自身の立ち位置を考えた。


 世界に信者がいるアルティア教の大教皇が、ただ一国の国王に留まっていてはいけない。


 国王すら導く存在であるべきだ。


 アルティア教国は国としてのアルティア神聖国とアルティア教会に分かれた。


 アルティア大聖堂の大教皇はアルティア神聖国の王を承認するが政治には関わらない。


 大教皇は精神的権威として信者の信仰の多寡にあわせて相応しい(くらい)を与えることにした。


 大教皇からの叙位は信者にとって名誉であった。


 アルティア教の信者には世俗の権力の持ち主である王や貴族もいる。


 大教皇からの高位階の叙位は世俗の権力者たちに彼らが権力者である正統性を与えるものとされた。アルティア神聖国の国王が大教皇に承認される流れと似たようなものだ。


 信仰の多寡は寄進の多寡に比例して判断する。(くらい)は商品だ。


 というのが、アルティアが死んだ後、百年の間にアルティア教国ひいてはアルティア神聖国に起きた変化だ。


 アルティアの死後、アルティアに墓は築かれなかった。


 アルティア教会は、アルティアは地上から姿を消し天に昇り神に戻ったと発表した。


 アルティアの後継者である弟子は自身にはアルティアほどの求心力はないと認識していた。裸猿人族(ヒューマン)である後継者は代替わりをするが、アルティアは常に超越した存在として在り続けるべきだと考えた。アルティアは現人神(あらひとがみ)であったとされた。


 実際のアルティアの遺体はアルティアの後継者から密かにマリアが引き取り、後に『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地と呼ばれる場所の一画に埋葬されている。


 マリアはアルティアが神ではなく、ただの裸猿人族(ヒューマン)であったと知っている。


 マリアにとってアルティアは護衛対象であり友人であり家族であり、また別の大切な存在でもあった。アルティアは生涯独身を貫いた。


 アルティア神聖国の大聖堂におわすアルティア教の大教皇は『神』の代理人を名乗るようになった。


 自らの居場所を俗界と隔離し、(アルティア)に近づく高い尖塔を立てて人々を見下ろした。


 いつしか『半血(ハーフ・ブラッド)』がなぜアルティア神聖国と肩を並べて戦うのか正しく理解している者は裸猿人族(ヒューマン)にいなくなった。


 アルティアと同時代を共に生きたマリアが、まだ『半血(ハーフ・ブラッド)』にいるなど思いも及んでいないだろう。


 何だかずっと昔に借地の契約があって居留地の土地は百年間『半血(ハーフ・ブラッド)』に使わせてやっているという程度の認識だ。


 アルティア神聖国と『半血(ハーフ・ブラッド)』は主従関係だとすら勘違いしていた。


 マリアは奴隷として誰かに隷属するつもりはなかったし同胞たちをそうさせるつもりもなかった。


 アルティア神聖国は居留地の契約を更新せず百年の満期をもって『半血(ハーフ・ブラッド)』に立ち退きを要求するつもりだった。


 とはいえ、契約満了まで我慢をしているのはマリアも同じだ。


 アルティア教国がアルティア神聖国に変わった後の三十年は『半血(ハーフ・ブラッド)』とアルティア神聖国軍は肩を並べて戦うことなく一方的に『半血(ハーフ・ブラッド)』が先陣を切らされてばかりだった。


 逆を言えば戦闘経験を積んでいないアルティア神聖国軍は弱体化の一途だった。


 マリアが甘んじて我慢していたのは来たるべき日に向けた準備の一環だ。


 アルティア教国内に居留地という形で『半血(ハーフ・ブラッド)』の居場所を確保したアルティアの考えが正しかったのかどうかはわからない。


 マリアが望むように居留地ではなく国民の中に紛れて生活をしていれば溶け込めたのかも知れないし、少数派は多数派に駆逐されるから、もっと早く追われたかも知れない。


 少なくともアルティア直筆のサインのある契約書がなければアルティア教国がアルティア神聖国になったタイミングで後を継いだアルティア神聖国は契約を破棄しただろう。


 お陰で準備を進められた、とマリアは考えている。


「もし後進が志を忘れてしまったら君の手で『元』に戻してほしい」


 マリアはアルティアと最後に交わした約束を覚えていた。


「その日がきたよ」


 百年後のその日、マリアは『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地の独立を宣言した。

◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


『クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。』を、ここまで読んでいただきありがとうございました。


 ここまでで、第四章です。


 大分、ダル場が続く暗い章になってしまいました。


 バッシュ、頑張れ。


 マリア、頑張れ。


 ニャイは、何してる?


 続きを、早く書け。


 タイトル詐欺だ。 


 話が重いんだよ。


 などなど思ってくださいましたら、評価とブックマークをお願いします。


                                  仁渓拝

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