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第87話 長寿

 マリアは国都の北門前に陣取る駐留地からさらに北側にある丘の上に本陣として大小様々な天幕を建てて大部隊と共に布陣していた。


 副官であるヘルダも同じ場所だ。


 本陣から『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地に帰るためには国都に背を向けてさらに北に進めば良いだけなので最も撤退しやすい場所である。


 国都の北門は居留地に一番近い側の門というだけではなく国都の正門でもあった。


 外国からの観光客や使節団が大聖堂を訪れるためには、アルティア神聖国の北側の海に面した、『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地とは別の港湾都市の港から陸路を使って来る方法が主流であるため、北面が正門となっているのだ。


 現在はその進路上に『半血(ハーフ・ブラッド)』本陣が設営されているため、誰も通れない。


 ぼくはジョシカとルンの後に続いて本陣の大天幕に入った。


 馬はジョシカの旦那さんに預けてきた。旦那さんは快く引き受けてくれた。


 一緒に来た王国の斥候は大天幕ではなく控室代わりの別の天幕に案内されていった。


半血(ハーフ・ブラッド)』が独立国であるとしたら全体の隊長であるマリアは王様だ。


 他国の人間がおいそれと会えるような安い相手ではない。ぼくは特別な友人枠だそうだ。まあ、そもそもの出会いは、おいそれだったけど。


 大天幕内には大勢の『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員がいて何か事務処理をしていた。


 見覚えのある顔がいくつかある。『長崖(グレートクリフ)』で一緒に戦った部隊の人たちだった。苦労人の半狼人族(ハーフウルフェン)の隊長さんもいた。


 みんな、ぼくを見て、なぜいるのかと驚いたような顔をしたが拒絶は感じなかった。受け入れてもらえているようだ。


 ぼくは目の合った人たちに会釈をしながら大天幕を抜け通路のような天幕でつながっている別の小さな天幕に入った。マリアの執務用の天幕だ。


 話は通じていたのだろう。中でマリアとヘルダが待っていた。ぼくは二人とハグをした。


 二人はすぐにボクの腕にジョシカとルンの『半血(ハーフ・ブラッド)』の腕章が留められていると気づくと何も言わずに自分の腕章を外し、マリアがぼくの右腕、ヘルダが左腕にそれぞれの腕章を留めてくれた。


「ありがとうございます」


 ぼくがお礼を口にするとマリアは笑った。


「せっかく来てくれたのにジョシカの旦那に絡まれるとは災難だったな」


 やっぱり誰かから事前に連絡が届いているようだ。


「うちの馬鹿旦那、俺の話を適当に聞き流しているだけだった」


 ジョシカが怒っている。


「王国に『半血(ハーフ・ブラッド)』は王国と敵対する意思はないと言ってくれて助かりました。お陰でぼくに手を出せなくなったそうです。『半血(ハーフ・ブラッド)』との関係を知られてずっと軟禁されていました」


「だから王国の兵団に報告に行くのは止めたのだ。私たちがアルティア神聖国に味方していたら真っ先に殺されていたぞ」


「『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地がアルティア神聖国から突然独立宣言をするなんてびっくりしました」


「突然というわけでもない。もともと『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地はアルティア神聖国の前身のアルティア教国から百年の約束で私が借りた土地だ。先日が期限でお互いに心変わりがなければ自動更新されるはずだったが、前契約を引き継いだアルティア神聖国は、案の定、もはやアルティア教国ではないから更新はしない、獣人は出て行けと言い出した。だから、期限切れを待って独立を宣言しただけだ。三十年前に教国が神聖国になった時から準備していたことだよ」


 ぼくはびっくりした。エルフが長寿だからハーフエルフも長寿であることは知識として知っている。


「百年契約の期限が切れるってマリア今何歳?」


「女性に年齢を聞くものじゃないな」


 マリアから、ぎろりと睨まれた。きつい目尻に余分な皺はない。百歳越えだとはとても思えない肌の張りだ。


「『契約の当事者双方に異存がない場合は、この契約の更新は百年ごとに自動的に行われるものとする。なお異存がある場合は、当事者の一方から他方へ書面、口頭、その他の方法により申し入れを行い協議するものとし、契約満了日までに協議が整わない場合は、お互いの心が寄り添わなくなったとして該当する土地の所有は元に戻る』

 契約書はそう結ばれている」


 マリアは『半血(ハーフ・ブラッド)』居留地の借用契約書の内容を(そら)んじて言葉を続けた。


「アルティア神聖国は元に戻るとは自分の所有に戻るという意味だと解釈しているようだが元というのは契約の以前、まだアルティア教国が(おこ)る以前ということさ。誰の土地でもない土地の領有は、その宣言と後ろ盾となる武力でもって承認される。契約当事者の私とアルティアの間ではそういう認識だった。いつか心が離れるまでだ」


 そう言うマリアは懐かしく何かを思い出すような表情をした。


「マリア、アルティア教のアルティアに会ったことがあるの?」


「傭兵として最初の何十年かの私の仕事はアルティアの護衛だ」


 ぼくの目の前に歴史上の偉人の知人が立っていた。長寿すげぇ。

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