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第79話 流民

 アルティア神聖国の国都を、もし真上から見たとしたら中央にはアルティア教の総本山である大聖堂が建っている。


 大聖堂は太さの異なる円柱を径が太い順に何段も積み重ねたような形をしていた。


 一番径が細い円柱部が長く伸びて、そのまま尖塔になっている。


 大聖堂と周辺の庭園を一辺数百メートルの範囲で四角く囲むように国都の周囲の石の壁よりもさらに高く頑丈な石の壁が聳えており壁の周囲は深くて幅の広い堀に囲まれていた。


 庭園には沢山の木が植えられており庭園にいると周囲の壁が木で視線から遮られて、まるで森の中にいるように感じられるらしい。


 堀には一箇所だけ大聖堂側へ持ち上がる跳ね橋が掛けられており、橋を降ろせば大聖堂と堀の外側で行き来ができるような構造だった。


 他の国の都市であれば城が建つべき位置に大聖堂が建っている。


 アルティア教の大聖堂はアルティア神聖国の国都の内側にあったが厳密にはアルティア神聖国とは別の国だ。


 国という考え方自体がそもそも違う。大聖堂は神に属する領域と見なされていた。したがってどこの国でもない。但し、アルティア教徒にとってはという話だが。


 本来のアルティア神聖国の国王がいる城は堀を渡る跳ね橋の手前に建っていた。見ようによっては城の背後に大聖堂を庇うような位置取りだ。


 国都の街並みは大聖堂と城の周囲に東西南北に数キロ四方の広さで広がっていた。


 正方形に国都を囲む四面の壁には、それぞれ街へ出入りするための門が設置されている。


 そのそれぞれの門の前に『半血(ハーフ・ブラッド)』の隊旗が翻り、数千人ずつの隊員が駐留していた。どこかにマリアたちもいるだろうか?


 遠目に見る限りの印象だけれど駐留している『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員の様子は戦時中の緊張状態ではなく、まるで集団でキャンプをしているような弛緩した空気が感じられた。


 国都を籠城状態に追い込み、助けに来るはずのアルティア兵を待ち受けようという状況であったら、こんな弛緩した空気は漂っていないはずだ。


 すでに戦闘が終結してしまった後のような空気だった。


 ぼくの経験で言えば崖下のオーク集落を殲滅させた後のような弛緩具合だ。


長崖グレートクリフ』から撤退していったアルティア兵たちはどうしたのだろう?


 門の前が『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員により占領されているのに対して、門以外の場所の壁の前には国のどこかから国都へやってきた流民たちの仮設住居が設置されていた。もちろん壁沿いだけではなく壁から離れた場所にまで大量に建てられている。


 パッと見た印象では壁に囲まれている国都の面積よりも壁の外に建つ流民たちの住居が建つ面積のほうが広そうだ。


 いくつもの町や村の人たちが自分たちの住居を捨てて移り住んできたのだから、人数的には恐らく門の中の国都に住む人々より壁外に住み着いている人々のほうが多くなる。


 多分、その壁外に住んでいる人たちのどこかに、ぼくたちと一緒にやって来た男家族の村の人たちもいるに違いない。国都の中には入らせてもらえていないだろう。国都の人々からすれば流民を無制限に壁の内側に住まわせてしまうと中の生活が破綻してしまう。


 普通に考えれば自分たちの町や村を捨てて国都へ流れてきた人たちは元々の町単位や村単位で近くに集まって住むと思う。その後、分かれてしまうかもしれないけれども何事もなければそのまま集まっているはずだ。


 男家族の村の人たちがどこにいるか聞いて回るしかないだろうけれども、ちょっと簡単には見つけられそうにない。


 くつろいだ様子の門の前にいる『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員たちとは別に、国都とそれを取り巻く流民たちの仮設住宅よりさらに外側に周囲を警戒するようしている隊員たちの姿もあった。


 ぼくたちみたいな国都に近づく存在に対して警戒する役割の隊員だ。


 ぼくたちは見咎められて何か言われるかと構えたけれども、『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員たちは、ぼくらの存在に気づきはしたものの何も言ってはこなかった。


 個別のアルティア神聖国人の動向に関心はないのだろう。本気で警戒対象にしているのはアルティア兵の反撃部隊が近づいてこないかとかそういった内容だ。


 荷物を引いたまま国都と周辺の様子を見つめて立ち尽くすぼくたちに『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員は近づいてこなかったが代わりに薄汚れたボロを身にまとった先輩流民の方々が近づいて来た。


 ぼくには探索者として野盗や山賊の討伐に加わった経験が何回かあるけれども流民たちの姿は見るからにその手合いだ。


 流民たちは身体こそガリガリに痩せこけていたものの若く比較的まだ荒事のために動けそうな男たちだ。


 そんな手合いが十数人。それぞれ手頃な長さに切りだした木材を握って、ぼくたちを取り囲むように近づいてきた。ギラギラと飢えた目で、ぼくたちを見ていた。


「何の用だ?」


 斥候の一人が流民に声を掛けた。


 流民は野太い声で答えた。


「食い物と馬をよこせ」

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