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第62話 想定外

 ピュイッ!


 その時、ぼくの背後で口笛が吹かれた。


 振り向くと少し離れたバリケード台車の手前に二頭の馬がいた。


 それぞれの馬の背に王国の斥候が跨っていた。


 斥候は手ぶりで、ぼくに『退()け』と合図を送った。


 口笛を吹いたのも裸猿人族(ヒューマン)だとバレないためだろう。


 アルティア兵にもオークにも、ぼくたちが王国の裸猿人族(ヒューマン)である事実は秘密だった。


 斥候の合図を見て、ぼくは慌てて横に飛んだ。


 ぼくが退いた場所を斥候が操った馬たちが駆けていく。


 馬は速度をどんどん上げながら階段に一直線に向かって行った。


 止まろうとしても止まれない勢いがついている。


 二頭の馬はロープでバリケード台車と結ばれていた。


 ぼくが意図したバリケード台車の尖ったほうをアルティア兵側にした向きではない。


 持ち手の側が前になっていた。


 台車は馬が走る速度と同じ速度で馬に引き摺られて進んでいく。


 馬は一切速度を落とさないまま階段上のアルティア兵たちに向かって突っ込んだ。


 その後を丸太の組木細工のような構造のバリケード台車が追いかけていく。


 馬が階段上に飛び出す寸前、王国の二人の斥候は、それぞれ左右別の方向に向かって真横に飛び降りた。


 崖の縁を、ごろごろと転がって勢いを消す。


 二人は素早く立ち上がった。


 怪我はないようだ。


 階段は所詮(しょせん)アルティア兵たちが突貫工事で作った仮設の物だった。


 一万人の兵士が順番に踏んでも大丈夫なつもりで作ってはいるだろうが切り出し

た丸太を簡単に製材した角材を土台代わりに下に敷いて、その上に平らに角材を並べて釘で打ち付けていく工法だ。


 普通に上に乗るだけならば問題ないが崖の岩盤と結合しているわけではないので強い衝撃に対しては弱い。


 しかも、ぼくが蹴り飛ばしたアルティア兵たちの血で濡れて階段の表面は滑りやすくなっていた。


 したがって、階段の踏板(ふみいた)部分を勢いに乗ったまま踏んだ馬は二頭とも足を滑らせた。


 馬たちはくるりと前転するように宙を舞ってアルティア兵たちを階段から突き落としたり踏み潰したりしながら階段上で転倒した。


 そこへ後ろからロープに引かれた勢いで崖の上の地面の高さにあるまま空中に飛び出したバリケード台車が放物線を描くようにして突っ込んだ。


 衝撃をまともに受けた階段と周辺の階段を構成していた木材が崩れ落ちた。


 馬とバリケードと残骸に巻き込まれたアルティア兵たちは悲鳴と騒音を上げながら急斜面を転がり落ちて行った。


 崖上から三段目までの階段が崩れてなくなっていた。


 四段目も今にも崩れそうに外れた角材が斜めになっている。


 その下の段以降も安全であるかどうか。


 少なくとも上から四段目までの区間のアルティア兵たちは完全に一掃されていた。


 落ちずに近くの斜面にかろうじて取り付いているアルティア兵も何人かいたが大半は馬たちと一緒に崖の下だ。


 ぼくを『半血(ハーフ・ブラッド)』のバッシュと呼んだ、あの兵隊がどうなったのかはわからない。ぱっと()はいなくなっていた。


 崩れた階段よりも下の段にいたアルティア兵たちは呆然とした様子で立ち尽くしていた。


 ぼくの想定していた作戦とは違ったけれども結果オーライだ。


 まだ立っているアルティア兵がいるのは崖上から五段目以降の階段だ。


 その位置までは崖上から十数メートルの距離で階段が途切れた状態だった。


 崖上との高低差も一メートル程はある。


 アルティア兵が仮に勢いをつけて階段を駆け上がって来て跳んだとしても登り坂だし崖上まではとても届かない。


「やった!」


 ぼくは思わず声を上げた。


 アルティア兵にもし聞かれて、ぼくたちが裸猿人族(ヒューマン)だとバレても、もう心配はないだろう。


 ぼくは喜びを共有しようと事態を成し遂げた王国の斥候二人に目をやった。


「え!」


 アルティア兵はもちろんだけれども、ぼくもぼくの近くで戦っていたオークたちも突然階段に起きた出来事に動きが止まっていた。もちろんオークジェネラルも。


 王国の斥候二人は、ぼくの近くに立つジェネラルに向かって弓を構えていた。


 射った。


 二人がそれぞれ射った矢の内の一本はジェネラルの額に、もう一本はジェネラルの喉に深々と突き刺さった。


 どうとオークジェネラルが崩れ落ちた。

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