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第59話 突撃

 ぼくの隣にやって来たオークジェネラルは右手の親指を立てて、ぼくに挨拶した。


「助けに来たぜ」と、ジェネラルの親指が語っていた。


 絶対ぼくを戦友だと信じて疑っていない動きだった。


 その親指で背後を示した。


 振り返ると、ぼくの背後に立つ何本もの樹木の後ろに身を屈めてオークたちが隠れていた。ジェネラルの指示で潜んでいるのだろう。


 裸猿人族(ヒューマン)はオークを見縊(みくび)りすぎていると、ぼくは思う。


 少なくともただのオークと肩書付のオークの能力を同一視しちゃだめだ。特にジェネラルを。


 アルティア陣地の両末端を目指して肩書付オークチームが密かに忍び寄っていたのは多分このオークジェネラルの指示だろう。


 アルティア兵の魔法職が、もし『光源(ライティング)』で周囲を明るくしていかなかったら肩書付オークチームは、それぞれアルティア兵に気付かれない内に両端から陣地内への侵入を果たしていただろう。


 そのまま陣地内を素早く中央部まで走って階段を上ってくるアルティア兵を左右から挟撃する体制を整えていたはずだ。


 結果的に末端部への接近は見破られてアルティア兵との射撃戦、魔法戦が始まってしまったけれども、オークジェネラルが陣地内のアルティア兵の動きを背後から客観的に見ていたからこそ出せた指示だ。


 恐らくは肉を齧りながら呑気に歩いているオークたちとは違って肉には一切目もくれずに辺りを警戒しながらオークの抜け道以外の場所を歩いて、この場所に近づいてきていたのだろう。


 もしかしたら今この瞬間に辿り着いたわけではなく、戦闘の開始前から隠れている、ぼくと王国の斥候二人の様子も把握していたのかもしれない。


 その上で、ぼくたちをオークと判断したのだとしたらアルティア兵にも見破られる心配はないだろう、


 オークジェネラルは気さくな口調で、ぼくに対して何か言った。


 多分、戦場での仲間同士の何らかの軽口だ。


 生憎オーク語がわからない。


 ぼくは鎖帷子のフードと外套のフードを二重に被っていたから簡単に顔は見えないはずだ。目だけを残して口と鼻の前には布も巻いているので、なおさら顔はわからない。


 だからといって話しかけられても答えないでいたならば相手も疑問を持つだろう。


 何か変なボロが出る前に事態を動かさないと。


 多分だけれども、ぼくが、そうじゃないかなと勝手に意味を想像しているオーク語が一つある。


 崖の下のオーク集落で戦闘になる際、マリアを前にしたオークキングが部下たちに対して発した言葉だ。


 聞こえた感じは、「ぐおお」だったけれども意味は多分「かかれ」だった。


「殺せ」かも知れない。何か、その類の命令語だ。


 ぼくはオークジェネラルにサムズアップをして助けに来てくれたことへの感謝を示した。


 それから、ぼくは「ぐおお」とオーク語で発したつもりで叫ぶと剣を抜き放って、その場を飛び出した。


 アルティア陣地の出入口に向かって、ぼくは走った。そこが今、一番手薄な場所だ。


 慌てたようにオークジェネラルもぼくの後について隠れ場所を飛び出した。


 ジェネラルは背後のオークたちに、やはり「ぐおお」と続けざまに命令を発した。


ぐおお(かかれ)ぐおお(かかれ)ぐおお(かかれ)


 オークたちも一斉に自分たちの(なまく)らな剣を抜いて隠れ場所から飛び出した。総勢二十人余り。全員並オークのようだ。


 オークたちは瞬く間に、ぼくを追い抜き、今まさに階段を駆け上ってきているアルティア兵に対して斬りかかった。


 陣地の左右から肩書付オークたちも突っ込んできた。


 階段とバリケード台車の間が主戦場になった。


 そこから先は乱戦だった。

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