第5話 討伐適正ランク
森の中。
前方に二匹の一角兎を発見して先頭を歩いていたぼくは、すぐスレイスともう一人の戦士職に場所を譲った。
二人は左右に分かれて、ぼくより前に出た。
いつものスレイスたちの戦闘の様子を見るため、ぼくはルートの案内をするだけで戦闘にはなるべく加わらない方針だ。
戦士職二人と魔法職と回復職の四人パーティー。
『同期集団』とスレイスたちのパーティーは同じ構成だ。
メンバーの性別が全員男である点まで一緒だった。
役割分担とか立ち居振る舞いに違いがあるならば、すぐわかる。
ホーンラビットは可愛らしい仕草でぴょんぴょんと小刻みに跳びながら、ぼくに近づいてきた。
思わず抱き上げたくなる。
子供が自分から近づいてしまいそうな危険な魔物トップ10には確実に入っていた。何も知らない子供であればホーンラビットの見た目の可愛らしさから抱き上げようと不用意に近づいてしまうだろう。
だが、ホーンラビットにはある程度の距離まで近づくと急に今までとは比較にならない距離を一跳びで跳躍して一直線に角で突いてくる習性があった。
ぴょんぴょんと近づいてきたホーンラビットが、ぼくめがけて一直線に跳躍した。
万年Fランクだけれど分かっていれば避けられる。
ホーンラビット討伐の適正探索者ランクはFだ。
ぼくは躱した。
着地した瞬間を狙って上から剣を叩きつけるようにスライスがホーンラビットの首を斬り落した。
続いてもう一匹。
ぼくが躱すと戦士職が同様に仕留めた。
「出る魔物、出る魔物、みんなバッシュを狙ってくるな」
剣を納めつつスレイスが言った。
「ヘイトを稼ぎやすい体質みたい」
「嫌な体質だな。呪われてんじゃないか?」と、もう一人の戦士職。
ノルマルたちにも散々揶揄われたネタだった。
「相手の注意が逸れてくれるから、こっちはやりやすいけどよ」
『同期集団』のいつもの戦法だ。
何となく、ぼくが魔物に狙われている隙をついて他の誰かが攻撃をする。
「特に探索している場所の違いはなさそうだ」
周囲を見回しながらスレイスが言った。
同じ町の探索者ギルドを拠点として同じ探索エリアを縄張りとしているのだ。
明確な違いなどあるわけがない。
今日の予定としてはスレイスたちに何も目的がない時の『同期集団』の流しの探索場所を一通り紹介するつもりだ。単純な魔物狩りルートである。
見つけた魔物を根こそぎ倒す必要はない。
スレイスたちは昨日の探索帰りの状況のままだから時間的に回復アイテムの補充などしていないはずである。
なるべく危険は冒さず探索場所の紹介と、あれば『同期集団』との違いの指摘をするつもりだ。
それでスレイスたちに何か得るものがあれば良し。
ぼくにも得るものがあれば、なおよしだった。
未練はあったけれども実際今までランクが上がらなかったぼくがスレイスのパーティーと行動したからといって急にランクが上がるようになんてなるわけない。
そのくらいの現実は、ぼくにだってわかっている。
だからスレイスたちの案内が終わったらそのまま別れて、ぼくは別の街に行くつもりだ。
案内は今までの恩返しみたいなものである。
「ただ今日は魔物が多いな。二倍とは言わないが体感で六、七割多いんじゃないか。毎回こんなに出てくれれば三年でCランクなんて、あっという間だ」
スレイスたちは笑いあった。
スライム五、大蜘蛛二、大蜥蜴三、一角兎四が、今日倒した魔物である。
こちらが先に気づいてやり過ごした相手もいるので実際の遭遇はもう少し多い。
ぼくは笑わない。いつもどおりの遭遇具合だった。
「え、本当に!」
驚くスレイスたち。
「やっぱ、数かな。俺たち楽をしすぎてた?」
スレイスはおどけた後に腕を組んだ。
「本当に、いつもこうか?」
真面目な顔になって、ぼくに訊く。
「いつ頃から?」
「最初からです」
「三年間ずっと?」
「はい」
スレイス以外の三人も表情が険しくなった。
「やっぱり異常だ。魔物もみんなお前狙いだったし。『同期集団』には当たり前すぎて気付けなかったのかもしれないがお前本当に呪われてるんじゃないか? 疑ったことは?」
ランクが上がらないぼくのことを冗談でそういう話をした覚えはあるけれど実際に呪われているかなんて教会で調べた経験はない。
法外なお布施を要求されるため無駄足の可能性は冒せなかった。
だったら共有装備の更新に注ぎ込んだ方がいい。
今までのスレイスパーティーと今日の違いは、ぼくがいること。
その結果、普段よりスレイスパーティーの魔物との遭遇率が増えたということは原因はぼくにあるということだ。
ぼくが魔物を引き寄せている?
呪いで?
そんな馬鹿な。
もしかしてランクが上がらないのもそのせいかな?
突然、ぼくは殺気を感じた。
咄嗟に頭を捻って避けた。
ぼくの後ろにあった木の幹に矢が突き刺さった。
ちょうど頭があった高さだ。
矢が飛んできた方向を見る。
奥の木の陰からオークが出てきた。
手に弓を持っている。
オークアーチャーだ。
通常のオークは討伐適正探索者ランク、E相当。
Eランク探索者ならば一対一で戦っても勝てるでしょうという程度の強さだ。
オークアーチャーになると討伐適正探索者ランク、D相当。
Dランク探索者であるスレイスたちならば問題はない。
その後ろから、もう一体。
オークアーチャーよりも一回り大柄な体躯。
見るからに立派な鎧と盾を装備し既に抜いた剣を手にしている。
「ジェネラルだっ!」
ぼくは叫んだ。
オークジェネラル。
オーク、オークアーチャー、オークメイジ、オークリーダーを超えて、その上だった。
討伐適正パーティーランク、C相当。
一般論としてCランクパーティーならば一対一パーティーで戦っても勝てるでしょうという程度の相手だった。