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第47話 オークキングスレイヤー

「ヘルダが脅すような真似をしてすまなかった」


 マリアが神妙な顔をして、ぼくに謝った。


「王国の兵団に、ここのことを伝える意志は固いのか? 真正直には話せないぞ。


 我々との関わりに触れずに、うまく伝えられるものかと心配している」


 ぼくはマリアが何を懸念しているのか意味が分からない。


「普通にありのままを話すつもりでしたけど」


「やはり、わかっていなかったか」


 マリアだけでなく他の三人も呆れたように息を吐いた。


「『半血(ハーフ・ブラッド)』の一番の依頼人(クライアント)がアルティア神聖国であるのは事実だ。


 何処の国の軍関係者も、そのように認識している。


 だから、君が我々を理解してくれたようには王国軍は受け取らないだろう。


 アルティア神聖国が起こす戦争には当然、我々も加わっていると思うはずだ。


半血(ハーフ・ブラッド)』としてはオーク集落を速やかに殲滅したいだけだったが結果的にアルティア神聖国が望む王国侵略のための橋頭保の確保は我々が行った」


 その言い分はわかる。ぼくは素直に頷いた。


「その過程で君が果たした役割は王国内で秘密裏に活動していた『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員をオーク集落に導いた上、オークキングに致命的な一撃を与えて集落の殲滅を成功させた、というものだ。王国侵略のための橋頭保確立の一番の立役者だぞ。


 本人にその認識があったか否かはともかくとして真正直に王国軍にそんな話をしたら内通者として君は斬られるぞ。内通していなくても、やっていることは内通者だ」


 ようやくマリアたちの懸念が伝わった。


「本当に侵略されたら、ぼくのせいじゃん」


 マリアを筆頭に残りの三人も同意するように深く頷いた。


 ぼくは頭を抱えた。


「だから、君が王国の兵団に報告に行くのは推奨できない」


 マリアが断言した。


 確かに。


 だとしたら、ぼくはどうしたらいいのだろうか?


 黙ってしらばっくれておく?


 いつかアルティア兵が侵略してきた場合に備えて自分だけ戦渦に巻き込まれそうにないところに逃げておくとか?


 それともニャイだけ連れて逃げる?


 駄目だ。


 ニャイに真実を話さないわけにはいかないし話した時に自分たちだけ逃げる行為を承知するとは思えない。


 逆にもしも承知されたとしたら、それはドン引きだ。百年の恋も冷める。


 それにニャイだけが助かればいいというわけじゃない。


 ノルマルたちもスレイスたちもギルドの職員も宿のおかみさんたちにだって、ぼくは死んでほしくない。


 もちろん名前も顔も知らないその他の町の人たちだって。


 だからといって、こっそり全員に秘密情報を伝えて、逃げろ、と言うわけにもいかないだろう。


 言ったところで、そんな不確かな話に従って逃げてくれるとも思えない。


 その結果、逃げ遅れた誰かが死んでいく。


 ぼくからの不確かな情報ではなく王国兵から然るべき緊急情報として流して、あわせて避難命令でも出してもらえれば完璧だ。


 素知らぬ顔で探索者ギルドに報告するという手もあるだろう。


 ぼくからの報告を受けて探索者ギルドは現地を確認し確認結果をギルドから王国の兵団に報告する。


 そうすれば兵団は現地確認に出向くはずだ。


 ただし、この方法だとギルドの確認期間を挟む分、実際に兵団が動くまでに日数がかかる。


 オーク集落を確保したアルティア兵が電撃的に侵略を開始した場合は後れを取る。


 もしかしたら、その時点ではすでに王国側に入ってきているかも知れない。


 事態は一刻を争っている。


 駄目だ。


 そう考えたら王国の兵団に黙っているなんて真似は、とても良心が耐えられない。


 ぼくがやっちゃったことなんだから、やっぱり、ぼくが何とかしないと。


 何か、団へのうまい話の持っていき方はないだろうか?


 探索中に偶々(たまたま)アルティア兵の秘密基地を見つけちゃったとか。


 それしかないだろう。


「それでも、ぼくは兵団に行こうと思います」


 ぼくはマリアに言った。


「そうか」


 ぼくが、そう言うと思っていたのか、マリアたちは驚いた素振りは見せなかった。


「君は、なぜそんな場所を探索していたのだと、もし聞かれたら? オークジェネラルと遭遇して仲間と別れた場所とは、まるで違う場所だぞ」


「次から次へとオークが出てきたので追われるままにどんどん逃げていたならば迷子になりました。すっかり逆の方向に向かっていたことにも気づかず『長崖(グレートクリフ)』の縁に出て初めて自分がどこにいるか気付きました」


「まあ、それぐらいしか他に言いようがないな。それで突っ張れるのか?」


「突っ張ります」


 マリアが、ぼくに右手を差しだしてきたので握手をした。


 ヘルダ、ジョシカと後に続く。


 ルンは、もう一度抱き着いてきた。


 その時、半狼人族(ウルフェン)の働き者の隊長がヘルダを呼びに来た。アルティア兵が報酬の残金を運んできたそうだ。


「アルティア兵に、ここを引き渡すと通れなくなるぞ。行くなら今の内だ」


 ヘルダが言った。


「俺たちの居留地に遊びに来たなら『オークキングスレイヤーのバッシュ』と名乗れ。どの部隊でも通じるように手配しておく」


 ジョシカが言った。


「それ言うの目茶苦茶恥ずかしいんですけど」


「だから、誰も(かた)らないだろう」


「嫌なら、あたいの内縁の夫だと名乗れ」


 ルンだ。


「いや、オークキングスレイヤーで」


 ぼくたちは大きな声で笑いあった。同じ死線を潜り抜けた者同士の笑いだった。


「死ぬなよ」


 最後にマリアが言った。


「あなたたちも」


 ぼくは崩れた『長崖(グレートクリフ)』の急斜面を一人上って王国へ戻った。

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