第41話 対応
オークキング 1
オーククイーン 1
オークロード 2
オークジェネラル 32
オークリーダー 71
オークメイジ 54
オークアーチャー 112
オーク 763
合計 1036
というのが、今回の戦闘で討伐されたオークの内訳だった。
オーククイーンが本当にクイーンなのか、まだオークロードだったのではないかという疑問はあるにせよ普通のオーク集団に比べて高位の肩書付の割合が異常に多い。
そもそもの話としてキングの存在が異常である上、万の群れでもないのにクイーンとロードがあわせて三人もいるし何よりジェネラルが多すぎる。千人規模の群れならば、せいぜい十人もいればいいところ、その三倍もいた。
やはりジェネラルを呼び集めて集落の更なる発展を計画していたのだろう。
この規模で早期に潰せたのはラッキーだ。もう少し集落が成長していれば『半血』単独での殲滅は不可能だっただろう。
補給を絶ち長期戦に持ち込めば確実に勝てる相手に、マリアがわざわざ短期決戦を仕掛けた理由は、依頼人の希望がそうであるというばかりではなくマリア自身の信条だ。
半オークとして望まずに生まれる子供などいるべきではない。
それ以前に行われる、そのための行為もまた、あるべきではなかった。
昼夜を問わず繰り返し行われるそれは自ら死を選べない本人にとって地獄である。
もちろん自死を選んだとしても地獄。
生まれてきた子供にとっての毎日も地獄だ。
マリアは自分の中に半分流れているオークの血が嫌いだった。
心の底から生まれてこなければ良かったと思った経験が何度もある。
オークの生活習慣というか文化というか習性というか、すべて嫌いだ。
いっそ滅べ、と思っている。
けれども、残り半分であるエルフの血もまた、大嫌いだ。
お高くとまった生活習慣も文化も習性も何もかも大嫌いだ。
被害者であるはずの母と自分がなぜ、ケアもなく祖国を追われねばならなかったのか。
生きている事実が悪いような目で見られるのは絶対に違う。
長命種であるということは地獄も永久に近く続くということだ。
絶つには自分で決意するしかない。
絶てぬ者、絶ちたくない者は地獄を生き続けるしかない。
戦闘終了後、『半血』はオーク集落を占領した。
本集落で倒したオークの総数は1036人。
捕虜としたオークはいない。すべて殺処分した。
一方、保護した非オークが108人。
近隣集落から攫われた裸猿人族だけでなく、その他の獣人種および半オークだ。
大人は全員、女性であり妊婦だった。現在進行形で地獄を生きている。
半オークは要するに望まれぬ子供たちだ。
成人72人、子供36人が保護した非オークの内訳だ。
マリアは『半血』本隊が持ち込んだ食料を使用して保護した人たちに十分な食事を振舞った。
その前にポーションと魔法による可能な範囲の治療を済ませている。
オークの食料庫にも食料はあったが人間が口にしてはいけないものだ。
マリアは倒したオークの遺体と共に、すべて焼却するよう部下に指示をだした。
保護した人たちへは持ち込んだ食料を振舞う。
ヘルダがマリアを呼びにきた。
「準備が整った」
マリアは今後の対応について傭兵集団『半血』の隊長として保護した人たちに話をしなければならない。
正直、戦闘行為よりも気が重い。
けれども、マリアが『半血』という傭兵集団をつくった目的の一つは、このためである。
望まれず生まれた半オークたちに居場所と職を与えるためだ。
傭兵という暴力的な職業であるのは虐げる側の者たちに、こちらには武力があると分かりやすく示すため。舐められないための自衛手段だ。
あわせてオークやゴブリンの殲滅を主任務として請け負うため殲滅後に保護された助けたい人たちとの接点も多くなる。
「わかりました」
マリアは保護された者たちの前に立ち自身の顔を晒した。
マリアから保護された人たちに行った話の内容は、以下のとおりだ。
一つ、現在いる半オークの子供36人は、『半血』が引き取る。もし母親が望むのであればアルティア神聖国内の『半血』居留地での生活を認める。
居留地での仕事の斡旋に『半血』は可能な限り協力する。
一つ、現在胎内にいる子供を出産する場合は『半血』が引き取る。
但し、出産まではアルティア神聖国内の『半血』居留地で生活するものとし期間中は『半血』が生活の面倒を見る。
期間後、もし母親が望むのであれば引き続き居留地での生活を認める。
居留地での仕事の斡旋に『半血』は可能な限り協力する。
一つ、アルティア神聖国内の『半血』居留地で出産した後、もしくは本集落で堕胎処置をした後の移動は自由である。もし後日、『半血』居留地での生活を希望する事態が生じた場合は相談されたい。
一つ、上記三項目についてアルティア神聖国の国民である裸猿人族については同国での裁判の結果に基づく対応となるため、この限りではない。
一つ、もし苦しまずに死ねる毒を希望する者がいるならば言ってほしい。




