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第40話 武功一等

 隙間通路の出入口から『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員の最初の一人が駆け込んできた。


 隊員は、そのままの勢いで即座にオークたちに斬りかかった。


 続いてもう一人。


 続々と『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員たちが駆け込んできた。


 オークキングもオークロードも失い、オークたちは指揮系統を無くしていた。


 雪崩れ込んでくる『半血(ハーフ・ブラッド)』の隊員たちを前にオークたちはなすすべもなく逃げ出した。


 オークジェネラルも指揮官ではあったがキングやロードの統率力には及ぶべくもない。オークを踏み止まらせて組織的な反撃を行う力はなかった。


 石壁上はマリアが制圧に成功したようだ。


 オークによる投石は行われなかった。


 オークたちは思い思いに逃げていくだけだ。


 ただし、集落から逃げ出せる場所には限りがある。隙間通路か急斜面だ。


半血(ハーフ・ブラッド)』が入ってくるのとは反対側の隙間通路から外へ逃げようとしたオークたちは集落内にまだ入って来られない隊員たちに討ち取られた。


 左右の隙間通路が通れるようになったことで隊員の入ってくる速度が倍になる。


 耐えに耐えていた『半血(ハーフ・ブラッド)』本隊の鬱憤が爆発したかのように後から後から駆け込んでくる半血隊員たちは次々にオークを狩っていく。


 集落の奥へ逃げ急な斜面をロープを使って登って逃げようとしたオークは仲間とロープの取り合いになり、登れずにいるところを、やはり討ち取られた。


 その後は一方的な殲滅だ。


 隊員たちが戦闘に参加できるようになってすぐ、一息ついたジョシカとヘルダが、ぼくたちの元へやって来た。大した怪我はしてなさそうだ、


 二人とも、なぜか呆れたような目で、ぼくを見た。


 ぼくはジョシカに抱き着かれて持ち上げられた。


 足をバタバタさせる。


 力も身長もあるジョシカに抱き着かれると自然とそうなってしまう。大人と子供だ。


「お前を助けたのは正解だった」


「命の借りを返せましたか?」


「十分すぎる」


 ぼくは地面に降ろされ開放された。


「新しく、あたいの分があるけどな」とルン。


「お前も無茶しやがって」


 ヘルダがルンの頭を、ぽかりと叩いた。


「あたしからも感謝する。ルンルン頭を置いて撤退を選択するところだった」


「そう思うんなら治してくれよ。まだ全快じゃねぇんだ」


 ルンは地面に座ったままだ。


 ヘルダはルンにポーションを渡した。


「よし」と、ポーションを飲んだルンが立ち上がった。


「当面安静ですからね」


 すぐ無茶をしそうなルンに、ぼくは釘を刺した。


「お世話してくれんだろ」


「あーん、て、してやりますよ。あと(しも)の世話も。お漏らしする前に言ってくださいね」


 ヘルダとジョシカがジト目だ。


「お前ら、随分仲良くなったな」


 ヘルダが言った。


「命を助け合いましたから」


「俺のほうが助けたのは先なのに。次は俺が死にかけた時、頼む」とジョシカ。


「皆さん、簡単に死にかけないでください。何ですか、今回の作戦は。命が幾つあったって足りませんよ」


「急いで落とす必要があったんだ」


 ヘルダが言い訳した。


「うまくいって良かった」


「まったくだ」


 マリアがやって来た。


 石壁の上から逃げるオークたちを倒すか追い払ったのだろう。


 石壁の階段にもオークはもういなかった。


「君がいたことには驚いたが助かった。感謝する」


 マリアが、ぼくに頭を下げた。


「置いてけぼりなんて、ひどいですよ」


「すまない。よくオークキングを倒してくれた」


「偶々、いい位置にいただけです。ぼくよりも、この剣のお陰ですね」


 ぼくは腰の剣を、ぽんと叩いてジョシカに言った。


「凄い切れ味だ。こんな剣、ただじゃ、もらえませんよ。何か魔法かかってるでしょ?」


「お前、そんな剣あげたのか?」


 ルンが驚いた声を上げた。


「見せてみろ」


 ルンは、ぼくの腰から剣を抜いた。


「いや。ただの市販品だが」とジョシカ。


「またまたぁ」


 ルンは剣を矯めつ眇めつしながら振っていたが、


「うん。ただの剣だ」


 と、ぼくの鞘に戻した。


 あれ?


 変だな。それじゃ、ぼくが実力で倒したみたいじゃない。


 ま、不意打ちだったしね。


「本当に、もらっちゃっていいんですか?」


「気に入ってくれたなら、それでいい。お前がしてくれたことへの礼は、そんな剣一本じゃ足りないよ」


 ジョシカは剣を絶賛されたことに対して釈然としないみたいだ。


 ぼくもだけど。


「バッシュは今回の武功一等だ。しかるべき報酬を後で出す」


 マリアだ。


「ありがとうございます」


 何とか傭兵でもやっていけるかな?


「隊長」


 その時、オークたちを殲滅していた隊員の一人がやってきて、マリアに敬礼をした。


 本隊の指揮をしていた人らしい。多分、狼人族(ウルフェン)ハーフの男性だ。


 年齢は三十くらい? ベテラン傭兵の趣きがある。


 そう言えば本隊の人たちも、みんな何らかの種族のハーフのようだ。


 ハーフの相手側は裸猿人族(ヒューマン)だけでなくオークやゴブリンの人たちもいる。隊員たちの性別は男性よりも女性が多そうだった。


「オークの掃討が終了しました」


 本隊指揮官はマリアに報告した。


「ご苦労。遺体を集めて、数えたら焼いてくれ」


「ハ!」


 本隊指揮官は不思議そうな顔で、ぼくを見た。


「そちらは?」


「あたいの夫だ」


 すかさずルンが、ぼくと腕を組む。


「どうして、すぐそういうこと言うかなあ」


 ぼくはルンを引きはがした。


「今回の武功一等だ。オークキングを一人で倒した」


 マリアが過分な説明をしてくれた。


 ひゅう、と、本隊指揮官は口笛を吹いた。


「そいつは凄い」


「ただの不意打ちの結果です」


 ぼくは正確な説明をした。


「こんな装備(なり)だがオークと間違えて狩らないでやってくれ。お前は、これつけとけ」


 ルンが自分の腕章を外すと、ぼくの腕に通してつけてくれた。


「一つじゃ目立たないだろ」


 ジョシカも自分の腕章を外して、ぼくの逆の腕につけた。


 マリアとヘルダも、ぼくに自分の腕章をつけた。


 ぼくは左右の腕にそれぞれ二つずつ『半血(ハーフ・ブラッド)』の腕章をつける派目になった。


「皆にも、そう伝えます」


 何だか苦笑いで本隊指揮官は持ち場へ戻って行った。


 お陰で、ぼくは隊員たちからオークに間違われて殺されずに済んだ。


 けれども、なぜだか、ぼくの腕章を目にした、『半血(ハーフ・ブラッド)』の隊員たちは一様にギョッとした顔をしていた。


 後で聞くとマリアたちの腕章は、ただの腕章ではなかった。指揮官用だ。


 少なくとも四人の指揮官が、ぼくに目を掛けていることになる。


 オーク集落での戦闘は終わってみれば圧倒的な大勝利だった。


半血(ハーフ・ブラッド)』側の死者は、ゼロ。


 最も重傷は両足を複雑骨折したルンだったが、それでさえ今は治っていた。


 ぼくはマリアたちから置いてけぼりをくらったわけだけれど結果的にオークキングに対する奇襲ができたのはラッキーだった。


半血(ハーフ・ブラッド)』でのぼくの初陣はこうして終わった。

『クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。』を、ここまで読んでいただきありがとうございました。


 ここまでで、第二章です。


 このような小説が好きだ。 


 バッシュ、頑張れ。


 ニャイは、何してる?


 続きを、早く書け。


 そう思ってくださいましたら評価とブックマークお願いします。


                                  仁渓拝

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― 新着の感想 ―
ここまでで、題名の通りになりました。 さぁ、ここからバチバチの無双劇を見せてもらえるかな~ワクワクです。
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