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クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。  作者: 仁渓


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第36話 小山

 マリアの周りには倒されたオークの群れが転がっていた。


 オークの血でできた水たまりがマリアの足元にできている。


 マリアは兜をかぶっていない。


半血(ハーフ・ブラッド)』の腕章をつけた、いつもの姿だ。


 ジョシカもヘルダも同様だった。


 多分ルンもそうだろう。


 ぼくは知らなかったけれども変装のためオークの外套と兜を身に着けてここまで来たマリアたちは開戦と同時に兜と外套を投げ捨てて『半血(ハーフ・ブラッド)』の姿に戻ったのだ。


 血だまりに立つ血まみれで鬼気迫るマリアの姿を見ると、なるほど確かに、ただのオークでは遠巻きするのが精一杯で怖くて近づけない。


 対峙したオークたちが肩書付を呼び寄せたくなった気持ちが、よくわかった。


 そりゃ、大人の背中の後ろに隠れたくもなるだろう。


 ジョシカもヘルダもマリアに負けず劣らず血まみれで悪鬼的な様相だ。


 ジョシカはバリケード台車を引き抜いた隙間通路の出入口を奪い返されないよう背を向けて守って戦っていた。


 ヘルダは低い石壁から次々自分に飛び掛かってくるオークを切り捨てている。


 マリアたちの誤算は、その低い石壁だ。


 多分、当初の予定ではバリケード台車を引き抜くと同時に低い石壁周辺の敵を排除して石壁の穴から進路を塞いでいる丸太や槍を取り除いて本隊を招き入れる手筈だったのだろう。


 けれども石壁本体の上にあがる階段のオークが二手に分かれて、ルンがいる石壁上へ向かう者とは別の動きとして低い石壁上へ次々にオークが飛び下りてきていた。


 そのため、低い石壁の穴から丸太や槍を抜き隙間通路を確保することができていない。


 オークたちとしても隙間通路から『半血(ハーフ・ブラッド)』本隊に侵入されてしまうと壊滅的な事態となるのはわかっている。死守だ。


 結果、マリアたちは時間をかけすぎた。


 奇襲と同時に通路を開通するぐらいの速さで進まなければ、やはり作戦は失敗だ。


 次から次へと敵が現れて囲まれてしまっては多勢に無勢でしのぎきれない。


 そんなこと、マリアは痛いほどわかっているだろう。


 せめて、もう一人、石壁を上る階段の下に味方がほしいと思っているはずだ。


 階段を上る敵さえいなくなれば、ヘルダが低い石壁に残った敵を排除して壁から突き出している邪魔な丸太や槍をどかして通路を開通できる。


 うまくいけばルンが上の敵を一掃して下へ加勢に降りて来られるかもしれなかった。


 だとすると階段下こそが、ぼくの持ち場だ。


 ぼくは腹を決めた。


 前に立つジェネラルたちの脇を抜けて、さらに前に出ようとする。


 その時、ぼくの背後にいるオークたちから大きな歓声が沸き起こった。


 振り向くと(ひし)めくオークたちの群れが左右に割れてできた道を、小山のように大きなオークが何人か歩いてくるところだった。


 通り過ぎる大きなオークたちに対して周辺のオークが歓声を上げていた。


 そもそもオークジェネラルとオークの身長差は大人と子供だ。


 そのオークジェネラルと歩いてくる大きなオークたちでは、さらに大人と子供だった。


 もちろん、歩いてくる大きなオークが大人側だ。


 ぼくの前にいたオークジェネラルたちも左右に割れて道を作った。


 ぼくも慌てて脇に避けた。


 ぼくの前を大きなオークたちが、のしのしと歩いていく。


 四人。


 前に二人、後ろに二人の隊列だった。


 前の二人は、後ろの二人に対する露払いの立ち位置だ。


 前の二人には、後ろの二人に対する気遣いが見て取れた。


 ぼくは息を呑んだ。


 この小山、オークロードだ。多分。


 居並ぶジェネラルと比べても圧倒的な強者オーラを醸し出していた。


 討伐適正パーティーランクB。


 討伐適正探索者ランクAの強敵だった。


 名前は知っていたが、もちろん、ぼくには見た経験はない。


 オークジェネラルだって、ついこの間まで見たことなかったのだ。


 小山のようなオークロードの男が二人。


 それが前列だ。


 後列の一人は少なくとも前列の二人よりは若干小柄だった。


 オークロードの女だ。


 けれども、明らかに前の二人からは気遣われていた。


 もしかしたらオーククイーンに成りかけなのかも。


 問題は、その隣。


 最後のオークは前を行く二人のオークロードよりも縦にも横にもさらに大柄だ。


 強者オーラも、さらに圧倒的。


 ぼくの前に立つオークジェネラルたちが剣を振り上げて大歓声を上げた。


 クイーンの横に立つ存在ならば名前は決まっているだろう。


 オークキングだ。

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