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第29話 そういや

 ぼくたちはオーク集落を見下ろす崖の上から少しだけ森に入った地点をベースキャンプにした。


 この場所ならば森を抜けて崖側からオーク集落に向かおうとするオークがいれば確実に気付ける。


 同時に、もしオーク集落から急斜面を上ってこようとするオークがいても見落とす心配はない。


 そのうえ、角度的に集落からも集落前面の石壁の上からも、ぼくたちが潜んでいるとは見えない場所だ。


 マリア曰く、後は、ひたすら、やってくるオークを狩るだけの簡単なお仕事、だ。


 ただし、時々、オークジェネラルが混ざっているのだが『半血(ハーフ・ブラッド)』の精鋭チームにかかれば問題はなかった。


 ぼくたちは出会った時と同じように焚火の周りに石を並べて椅子にして座っていた。


 そろそろ日が暮れる。


 夜になれば夜間移動をするオークたちが森側から集落に近づいてくるかも知れない。


 囮担当のぼくを除いて交代で見張りとオーク狩りだ。


 ここまで、ぼくたちは日中進み、夜は野宿というパターンでやってきた。


 夜間哨戒は行わなくても抜け道を辿って来たので、夜、野宿をしていれば勝手に集落を目指すオークのほうから、ぼくたちに近寄ってきてくれた。


 段取りとしては、ぼくがキャンプ地の焚火の脇で眠って囮を務める。


 残りの四人は二人ずつに分かれて物陰で待ち伏せだ。


 待ち伏せは交代制で一人は仮眠、一人は見張りという段取りだった。


 まるでオークのような姿のぼくを見つけて集落へ向かうオークが油断して近づいてきたところを物陰に潜んだ見張り役が背後から忍び寄って仕留める。


 そういう作戦だ。


 もし、一人では手に余りそうな数のオークであれば相棒も起こして、ことにあたる。


 何なら四人で連携してもいい。


 マリアたち曰く、夜間哨戒の際にオークの様子を探っていたところ、ぼくが裸猿人族(ヒューマン)の探索者であると気づいた時点で、ぼくを襲おうとせず、そのまま近づかずに離れていくオークが結構いたという。


 警戒心が強い者たちだったのだろう。


 だから、ぼくがオークの姿をしていれば、オークたちは、もっと油断して近づくはずだ。


 そのためのオーク装備だった。


 ぼくのボロボロの装備を不憫に思って用意してくれたわけじゃなかった。


 誰だよ、「作戦中は、お前も『半血(ハーフ・ブラッド)』だ。ボロ、着させてるわけにゃいかねぇからな」なんて格好いいこと言ってた奴。


 思い切り囮役のカモフラージュ装備じゃんか!


 とはいえ、お陰様で日中の移動こそあったけれども、夜のぼくは普通に焚火の傍で囮として寝ているだけで何もしていない。


 囮まで戦闘に参加するような緊急事態はまるでなかったので普通に朝起きて夜寝る生活を、ぼくはしてきただけだった。


 それに対してマリアたちは、日中は、ぼくといっしょに移動をして夜は交代で仮眠だけだ。


 纏まった睡眠をとっていなかったけれども、それでやっていけるのだから流石だった。


 作戦行動中は自分を律していけるらしい。


 やっぱり、ぼくには傭兵は務まらないかも。


 ぼくも交代で見張りのメンバーに入ると言ったけれども、オーク何某(なにがし)に返り討ちにされる恐れはともかく、下手に物音を立てて倒されると困るから余計なことはしないでいい、と言われていた。


 生憎、暗殺的な手腕は、ぼくには、まったくない。


 もちろん、返り討ちの恐れのほうは、たっぷりあった。


 なにせ万年Fランク探索者だ。


 ジョシカが、ぼくとオークジェネラルの戦いを目撃していたため『半血(ハーフ・ブラッド)』のみんなから、ぼくにはナイフでオークジェネラルとやり合える程度の腕がある、という変な認識をされているみたいだったけれども、そんな奇跡的な動きが何度もできるわけがない。


 ジョシカの見解は逆で、一度できたのだから次もできる、むしろそれだけの力を持っていないのなら一度すらできない、というものだ。


 そんなわけないのに。


 とはいえ、せっかくジョシカから貸してもらった予備の剣は、これまで使う機会がなかった。


 ぼくの本当の実力は知られていないままだ。


 だから、『半血(ハーフ・ブラッド)』で実際にぼくがやってきたことは、ほぼほぼ食事当番だけだった。


 そんなぼくが、ありあわせの材料で作った汁物を啜りながら唐突にルンが言った。


「そういや、ニャイってな、誰だ?」

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