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第17話 半血

 ぼくはハッと目を覚ました。


 目の前に、ぼくの顔を覗き込んでいる猫人族(キャッティー)の女性の顔がある。


「ニャイっ!」


 ぼくはニャイの左手をぎゅっと握った。


「何しやがるっ!」


 ニャイは握られていないほうの右手で、ぼくの左頬を引っ掻いた。


 爪を出したので親指を除く四本の赤い平行線が、ぼくの頬に斜めに描かれた。


 違った。


 ニャイじゃない。


 小柄な別の猫人族(キャッティー)の女の人だった。


 キャッティー?


 それも違うような気がする。


 確かに猫顔ではあるのだけれど。


 もっと毛が少ない。


 裸猿人族(ヒューマン)とのハーフかな?


 ぼくは地面に敷いた布の上に寝かされていた。


 ぼくは布の上に身を起こした。


「おい、こいつ起きたぜ」


 ハーフキャッティー(仮)の女の人は少し離れた場所で焚火に当たって食事をしている人たちに声を掛けた。


 人影は三人ある。


 鍋が火の脇に下ろされ、それぞれ椀に入れた何かを匙ですくっていた。


 森の中だった。


 夜だ。


 オークジェネラルと戦っていた場所の近くではなさそうだ。


 生えている木の種類と地面の様子が、まるで違った。


 暗くてもそれぐらいは分かる。


 オークジェネラルと戦っていた場所は地面が土であったが今いる場所の地面には岩盤が多く露出していた。


 むしろ、岩と岩の隙間に土が挟まっている感じだ。


 木もオークジェネラルと戦っていた場所は広葉樹だったが今いる場所の周囲に生えている木は針葉樹だった。


 ということは北に移動して山岳地帯寄りの場所か?


 だとしたら随分な距離を移動していた。


 焚火の近くの人たちの内の二人が椀を下に置き、こちらにやって来た。


 ぼくに背を向けている一人は、そのままだ。


「おいおい、せっかくポーション飲ませて治したってのに早速傷つけてんじゃねーよ」


 すらりとした狐人族(フォクシー)の女性だ。


 いや、やっぱり毛が少ないからハーフフォクシー?


「いいじゃん。口移しで飲ませたの、どうせあたいなんだから」


 さっきのハーフキャッティー(仮)が反論する。


「うそ!」


 ぼくは自分の唇を手で触った。


「うそだよーん。そのリアクション、さてはお前童貞だな」


 なにをっ! そうだけど。


「バカなこと言ってんじゃねー」


 ハーフフォクシー(仮)はハーフキャッティー(仮)の頭をポカリと叩いた。


「ぃってーなー」


 ぼくは二人の掛け合いを呆然と見つめてしまった。


 ぼくの上半身は服が脱がされ包帯が巻かれていた。


「あ、治療していただきありがとうございます」


 ぼくは慌てて半猫人(ハーフキャッティー)(仮)に頭を下げた。


「いいって、いいって」


 へらへらとする半猫人(仮)を半狐人(ハーフフォクシー)(仮)が、また

ポカリ。


「おい、お前。感謝するならルンルン頭じゃなくて、そっちだ」


 半狐人(仮)は別の一人を示した。


 熊人族(ベアール)の大柄な女の人だった。


 ぼくが泊まっていた宿屋のおかみさん一家より明らかに毛が少ない。


 やっぱりハーフベアール(仮)みたいだ。


 この集団はハーフの人たちばかりなのかな?


「おまえをここまで運んできて治療したのはジョシカだ」


「ありがとうございます」


 ぼくはジョシカに頭を下げた。


「おう」と、ジョシカは、にっこり笑った。


「あたしは『半血(ハーフ・ブラッド)』副隊長のヘルダ。この馬鹿はルンルンだ」


「ルンルンじゃなくてルンだ」


「バッシュです」


 ぼくは、あらためて三人に頭を下げた。


 三人とも軽装だが鎧姿だ。


 左腕に腕章をはめていた。


 ハートの左半分が黒、右半分が赤の図柄が刺繍されている。


「起きたなら隊長にご挨拶しろ。歩けるだろ」


「はい」


 ぼくは立ち上がって焚火の傍にいる隊長と呼ばれた人の元へ向かった。


 ん?


 今、『半血(ハーフ・ブラッド)』って言った?


 ぼくが知る限り、『半血(ハーフ・ブラッド)』という名の集団は一つしかなかった。


 悪名高き傭兵集団だ。


 名前の由来は確かリーダーが半オークであること。


 自分に流れるオークの血を嫌いオークの殲滅に命を懸けているという話だった。


 金に汚く慢性的に不足している隊員を補うため奴隷を入手しては戦場に連れて行くという話だ。


 探索者をしていると時として探索者も兼ねる傭兵たちと行動を共にする機会もある。


 以前、そんな人たちとギルドで話をする機会があった際、もし『半血(ハーフ・ブラッド)』のリーダーの顔を見ても驚きを絶対に顔に出すな、と釘を刺されていた。


 理由はたった一つ。


 笑ったら殺されるぞ。


 その『半血(ハーフ・ブラッド)』のトレードマークが確か半分ずつ黒と赤に塗り分けられたハートだった。


 だとすると、今ぼくが挨拶をしようとしている隊長という人は。

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