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第110話 交渉窓口

「大教皇が君との面会をご所望だ。アルティア教徒を飢餓から救った『炊き出しのバッシュ』に直接感謝の意を申されたいそうだ」


 は?


 ぼくは思わずマリアの顔をまじまじと見てしまった。


「感謝も何も大教皇が国民を飢えさせた犯人じゃない」


「建前上、アルティア神聖国とアルティア大聖堂は別の国だからな」


「教会から神聖国の各部門に偉い人を出向させてるのに?」


「黒幕と実行犯は別にいるものだ」


「黒幕がぼくなんかに会いたがる理由は?」


「君の人気にあやかりたいのだろう」


「どういうこと?」


 こういうことらしい。


 アルティア神聖国民が飢餓に窮している状況についてアルティア大聖堂の大教皇は常日頃心を痛め熱心な祈りを捧げていた。この度、大教皇の祈りが天に通じてバッシュの炊き出しという形で国民が救われた。


 違う言いかたをすれば、大教皇が祈ったお陰で国民が救われた。


 ついては実行役を担ったバッシュに感謝したい。


 なんだそれ? 手柄泥棒?


「教会は自分の権威を守りたいとかそういう話? そうすれば信者に面目が立つとか?」


「表向きの理由はそうだ。実際のところは情報収集と今後の交渉窓口が欲しいのだろう。宗教的な理由から大教皇は我々のような半獣人とは口を利かないそうだから裸猿人族(ヒューマン)のバッシュ氏しか当てがないようだ」


 ああ。そういう話か。


「勝手に当てにされても。ぼく、侵略された王国の人間なんだけれど。王国への侵略も教会の意向だよね」


 大教皇の勝手な思惑に、ぼくは困惑した。


 アルティア神聖国が王国への侵略なんか考えなければ今頃、ぼくはこの場にいなかったはずだ。


 その場合、『同期集団』をクビになって、スレイスたちと出た探索でオークジェネラルに遭遇して、囮になった末、相打ちで人生を終えていた。


 侵略がなければ『半血(ハーフ・ブラッド)』が王国側からオーク集落を目指す必要はなかったはずだからジョシカに助けられることはなかっただろう。


 あれ? そう考えるとアルティア神聖国が侵略を画策したお陰で、ぼく、まだ生きてる?


「気が乗らなければ行く必要はない。話がきたから伝えただけのことだ」


「でも、マリアがわざわざ呼んだってことは行ったほうがいいんだよね?」


 そこでマリアの困ったような顔だ。なるほど、行けとは言いづらいということか。


「交渉窓口が必要であるのは間違いない。問題は宗教的な理由とやらで臨席が裸猿人族(ヒューマン)に限られる。我々は立ち会えない。もちろん、ふざけるなと突き返して今まで通り兵糧攻めを続けるのが一番安全だ。但し、決着まで時間がかかる」


 なるほど。仮にこの先戦闘が行われないとしても包囲の兵士をずっと置いておく負担は、金銭的にも時間的にも馬鹿にならない。さっさと終戦に持ち込みたいマリアの気持ちはわかる。


 早く終戦になってくれないと困るのは、ぼくも同じだ。探索者ギルドに帰れない。


 ぼくは終戦まで王国に軟禁状態にされている扱いになっていた。


「一人か。殺されちゃうかな?」


 ぼくは、ふざけて聞いてみた。


「いきなり殺されることはないだろう。向こうは交渉のやりとりを重ねたいと考えているはずだ」


 マリアから思ったよりも真面目な答えが返って来た。ぼくも殺されはしないと思うから言ってみたんだけど。いきなりじゃなければ、あり得る話か。交渉決裂時とか。


「敗戦条件の確認という理解でいいかな? 難しい話になったら持ち帰りで」


「大聖堂が建前どおり神聖国とは別物だと言い張るようなら、部外者は黙れ、と言ってこれまでどおり包囲継続だ。大教皇が責任を認めるなら毒殺か断頭台か好きなほうを選ばせてやれ」


 そんなこと相手に言ったら、ぼく生きて帰れないと思います。


 ヘルダが助け舟を出してくれた。


「うちの最低条件は大聖堂の明け渡しと大教皇の国外退去。アルティア神聖国が払いきれない分の賠償金支払いだ。それが呑めないようなら殉教してもらおう。毒殺か断頭台だ」


 やっぱり生きて帰れないと思います。


 それはさておき、


「わかった。とりあえず話をしてくるよ。ぼくは『半血(ハーフ・ブラッド)』の通訳担当だ」


「すまない」


 マリアとヘルダが頭を下げた。べつに命令してくれていいのに。


「でも、ぼく一人で行って、言った言わないになると嫌だからもう一人連れて行っていいかな?」


 ぼくは王国の斥候を引き込むことにした。

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― 新着の感想 ―
 そろそろ斥候氏たちにも名前を付けてあげてw  相当重要なポジションになりつつあるし。  しかし主人公、もう単なる通訳担当とは言えないような⋯⋯。
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