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第106話 役割分担

 ぼくは、ぼくたちの呼び込みをしてくれた実行部隊のアルティア兵に声をかけた。


「怪我はしてない?」


「返り血だけだ」


 ということは楼門の中がひどいことになっているのだろう。


 ぼくたちの足元には投降したアルティア兵たちが捨てた剣や槍、盾が積み重なっている。


「あなたたちも」


 ぼくは実行部隊の人たちに武器を捨てるよう促した。


 実行部隊の人たちも武器を捨てた。


「ここの部隊の隊長さんは?」


「真っ先に逃げた。教会からの出向だったからな」


 実行部隊ではない広場にいたアルティア兵の一人が返事をした。


「ああ」


 それもあってアルティア兵たちは広場に固まっていただけだったのか。


 再び実行部隊に訊く。


「他の門の人たちとは連携してるの?」


「各門にいる信用できる人間に『炊き出しのバッシュ』から門の開放と引き換えに身の安全を取り付けたという話を伝えただけだ。連携までは取れていない。多分、それぞれここと同じように考え似たような動きを取るはずだ」


 ん? さらりとぼくに二つ名が増えていた。


 ぼくは『オークキングスレイヤー』で『ルンの内縁の夫』で『炊き出しのバッシュ』でもあるらしい。


「どういう状況になってるか分からないけど、こっちからも説明に行ったほうがいいね。疲れているところ申し訳ないけれども一番事情を分かっているのはあなたたち実行部隊だと思うからメンバーを四組に分けて。そのうち三組は『半血(ハーフ・ブラッド)』と一緒に各門に説明に行ってもらう。まだ門が開いていないようなら投降させて開門して」


 ぼくはブランに向きなおった。


「ということで説明について行ってもらう部隊の手配をお願い。壁伝いに北門と南門に百人ずつぐらい。残った内の半分でお城と大聖堂を囲みに行き東門へはそこから分かれて行ってもらおう。あとの半分はここの確保と外での炊き出しの対応を」


「わかった」


 ブランは部隊のほうへ走って行った。


 もし、ぼくの指示が駄目だと思った時には遠慮せずその場ですぐ言ってもらうようブランとコークには伝えてある。ぼくは指揮は素人だ。


 二人とも何も言わなかったから、そうおかしくはないという判断だろう。最悪、ぼくのせいでおかしな事態になっても最後はジョシカの旦那さんが何とかしてくれると信じている。


 実行部隊の人たちの差配はそれでいいとして、その他のアルティア兵の差配がある。投降した百人が所在なく立っていた。


 ブランと入れ替わるようにコークがやって来た。


「上は?」


「弓兵隊に引き継いできた。それよりあっちだ」


 コークは犬顔の鼻先をしゃくって広場の外れのほうを指した。


 広場が終わると国都の街並みが続いている。住宅街だ。


 ぼくたちがトンネルを抜けて中に入った時、街は寝静まって真っ暗だったが、今はぽつんぽつんと家に明かりがついていた。


 広場の外縁にはコソコソとした様子の幾人もの人影もある。


 これだけ騒いでいるのだから市民が目を覚ましても不思議はなかった。


 そりゃ、何事が起きたかと確かめにだって出てくるだろう。


 音もそうだが壁の内側がそこかしこで光っていた。


 壁伝いに展開していく部隊が行く先々で壁に『光源(ライティング)』を放っている。


 市民たちには国都を囲んでいた『半血(ハーフ・ブラッド)』隊によりついに門が破られ、猛獣たちが攻め込んできたと思われても不思議ではない。パニック必至だ。


 アルティア兵たちにうってつけの仕事が見つかった。


 ぼくはアルティア兵たちに声をかけた。


「早速ですが働いてもらいます。門から出ると炊き出しの準備がされています。いきなり強面の『半血(ハーフ・ブラッド)』から市民に声をかけるとパニックになるので皆さんには炊き出し場所までの市民の誘導と列の整理をお願いします。声かけをしながら交代で自分たちも食べてもらって構いません。詳しくは」


 ぼくはコークの右手を掴んで頭の上まで持ち上げ手を振らせた。


「ここにいるコークに聞いてください。ただし、炊き出しの列は一方通行です。門から出た市民は我々の作戦行動が済むまで何日も中には戻れません。炊き出しの列への並びなおしは何度でも可能です。実際の声かけの内容はこれからぼくがやるのを真似してください」


 そうアルティア兵たちに指示を出した。


「じゃあコーク、ここはお願い」


 ぼくは、ぎょっとした顔のコークをその場に残すと手近のアルティア兵を何人か指名して伴い、広場の外縁からこっそりぼくたちの様子を窺っている市民たちのほうへ向かった。

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