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第101話 声

 東南北の門の前でも、すぐに炊き出しを開始した。


 一日に一箇所ずつ炊き出し場所を増やしていく。最大で四箇所だ。


 各門の開設初日のみだけれど西門と同じように、ぼくは列と配膳の接点を担当した。


 多くの流民が一日目の西門の列に並んだ経験者だったため大した混乱は起こらなかった。


 皆さん自分の寝場所から一番近い炊き出しに並ぶようになったため列の長さが単純に四分の一になる。


 代わりに夜間の炊き出しを終了した。もともと調理兵の負担が大きすぎる。


 当初の大方針に従って列の整理に『半血(ハーフ・ブラッド)』隊員も加えて名簿の聞き取り調査を実施する。


 あわせて『半血(ハーフ・ブラッド)』が国都を囲んでいる理由やアルティア神聖国内の食料不足の本当の理由を説明した。


 理由については事前にリーダー格を経由して元村長から単に腕っぷしの強い人までいる流民の顔役さんたちに伝えて、その影響下にある一般の皆さんにも伝えてもらっているため、いきなり何を言い出したかと面食らったり名簿作成を拒否する人はいない。


 アルティア教会が嘘をつくはずがないと怒り出す人が出てくるかと思ったけれども誰もそのような言葉は言わなかった。


 実際のところ国都の周囲を『半血(ハーフ・ブラッド)』が取り囲む以前から壁の外の流民に対する炊き出しは行われておらず、自分たちは既にアルティア教会からもアルティア神聖国からも見捨てられた存在であると諦めていたようだ。


 祈れば都合よく助けてくれるような神はいない。


 マリアに言わせれば、最初からアルティアは神なんかじゃない。ただの人だ。


 ただし、理想を実現しようとするための誰よりも強い意志を持っていた。


 勝手にアルティアを神に祭り上げておきながら、奇跡を起こさないからと逆恨みするのは理不尽だろう。


 王国へ戻った斥候の到着を待たずに伝書鳩による急報が届いた時点で王国は第一便の食料輸送隊を出発させてくれていた。アルティア神聖国からの宣戦布告を受け各前線へ運ぶために準備したまま行き場を無くしていた食料を即座に転用したそうだ。


 王国から食料と燃料を積んだ沢山の荷駄が続々と到着して、もう一人の王国の斥候とコークは炊き出しではなく荷物の受け入れ業務に追われるようになった。


 王国からの輸送隊は炊き出しに並ぶ流民の列の長さを目にして自分たちが運んできた食料がどれくらいの日数でなくなるかを理解すると休む間もなく王国へ戻って行く。


 王国から届いた食料の山を見て歓声を上げる流民たちに対して、実はアルティア神聖国は隣国である王国に対して宣戦布告しているという事実を公表した。


半血(ハーフ・ブラッド)』と王国の共闘により現在の炊き出しが行われているが今後アルティア神聖国には大規模な体制の変更と領土の変更が発生する。食料だけではなく(たね)の配給も実施し春には国都周辺から新たな土地へ移り住んでもらうことになるだろう。詳細は決まっていないが以前いた土地へは戻れないと覚悟してもらいたい。


 あわせて国都の南北辺の延長線上に打っている杭は、そのための準備であることを仄めかした。


 もともと春まで生きられる希望がなかった人たちから表立って不満の声は上がらない。自分の村を捨てて出た時点でもう戻れないと覚悟が決まっていたのだろう。自分の移住先に多少の興味は抱いてもアルティア神聖国の体制変化には誰も興味を抱かなかった。


 直接的な炊き出しへの参加がなくなったため、ぼくはもっぱら見回りだけだ。


 各炊き出しの列に並ぶ人に困っていることはないかと話しかけたり壁伝いに国都を一周してみたり。


 ブランが相方になってくれた。


 壁の周囲を歩きながら壁外の様子を確認すると同時に、ぼくは壁の上の様子も気にかける。


 時々、見張りのアルティア兵が立っていた。見つける度に、ぼくは挨拶の声をかけたけれども壁の上から返事が来たことは一度もない。


 中の人たちはご飯を食べられているのかな?


 少なくとも『半血(ハーフ・ブラッド)』が国都を包囲して以降、国都の内側に食料が持ち込まれた事実はないと聞いている。


 その時、「おい」と壁の上から声がかかった。


 地面の傾斜に関わらず壁はなるべく天端が水平になるように築かれていたため、壁が高いところでは二十メートルぐらいの高さがあったけれども、低い場所は十メートルぐらいの高さだった。


 壁が低い場所ならばそれほど無理をしなくても声が届く。


 今、ぼくたちが歩いているのは壁が低い場所だ。


 見あげると一人のアルティア兵が壁の上に身を伏せて壁から外に顔を突き出していた。


「バッシュって、あんたか?」

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