彼女からの手紙
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宮下柊君
私から頼ってばかりでごめんなさい。最後にひとつだけお願いがあります。
今まであったことは全部忘れてください。
大橋向日葵
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「……何だこれ」
思わず声に出してしまった。家のポストから出てきたのは簡素な封筒だった。中にはまさかの全部忘れろとの指示。
昨日空き地で何か決意を固めた彼女は、僕が何を言っても聞き入れてくれず、そのまま別れてしまった。翌朝ポストを見に行ったらこれである。
あまりにも雑なんじゃないか、などと怒りを覚えることはもちろんない。むしろ向こうからしたら僕がただのダル絡みだった可能性もある。
僕は封筒を自室に運び、思案した。忘れろとのことだから本来はそれもダメなのかもしれないが……。考えずにはいられなかった。
机に向かい、もう一度封筒をひっくり返す。すると、手紙だけでなく小さな花とカードが出てきた。さっきは気づかなかった。
これは――ヒイラギの花。
カードには〈私の家の庭に咲いてる花です。柊君にお似合いだと思ったので添えておきました〉と書かれていた。
昨日訪れた家を必死に思い出す。
何度考え直しても、一本のヒマワリしか咲いていなかったという結論に至る。それに——。
僕は思わず窓の外を見た。広がっているのは8月16日――真夏の青空。ヒイラギが咲くのは冬である。
そのとき、僕の中で全てが繋がった。