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彼女のかつての家

 翌朝。僕は七時に起きて強盗殺人事件について検索をかけまくっていた。


 しかしどういうわけか、一向に「大橋向日葵」なる少女が被害者となった事件はヒットしなかった。


 彼女が今高3で小2のときに事件に遭ったのであれば、10年ほど前のはずだが……「大橋」という名字の被害者はどこにもなかった。昨日言っていたのは偽名だったのだろうか。


 そこでふと疑問に思うことがあった。亡霊というのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 超常的なものである以上何の理論付けをすることもできないが、僕は死んだ時点の姿で現れるものと思っていた。


 なんだか釈然としない。今までのことが全部妄想だったと言われた方がまだ納得できるだろう。


 色々と頭を捻るが、事態を説明できる妙案は浮かばなかった。


 もたもたしていると約束に間に合わなくなるので、僕は身支度をして家を出た。


 八時五五分、例の公園に着くと彼女はすでにベンチに座っていた。夜に見るとぼうっと光って見える体も、昼に見ると普通の女の子だった。さながらツキヨタケのようだ。


 隣に座ると、彼女は少し複雑そうな笑みを返してきた。まだ僕の手間を取らせることを気にしているらしい。


 僕は彼女の発言を待った。今日の主役は向日葵の方だ。


 彼女は諦めたように口を開いた。


「私が昔――強盗に襲われる前に住んでた家に一緒に来てくれる?」


 僕は無言で頷いた。




 彼女の案内で到着したのは、少し寂れた住宅街の一角にひっそり佇む一軒家だった。とても裕福には見えない、色褪せた木の家である。向日葵が十年前に強盗に遭った家なら事故物件ということになるが、どう見てもここ十年で建て替えられたようには見えなかった。


 手前には申し訳程度の庭がある。そこには一本のヒマワリが力強く咲き誇っていた。


 ドタバタバタン。


 家の二階あたりから誰かが走り回る足音が聞こえた。木造住宅だから音がよく響いてくる。


 そのとき、二階の窓が突然開き、小さな女の子が顔を出した。家を眺めている僕らをまじまじと見てくる。不審者と思われたかもしれない。


 僕の横に立っていた向日葵は、女の子が顔を出した途端顔を背けた。元々は彼女が住んでいたとはいえ今は他人の家なわけだから、後ろめたいのも当然だ――初めはそう思ったが、彼女が急に泣き崩れたことで状況は変わった。


 僕は慌てて彼女の肩を支え、近くの空き地まで連れていった。顔を覆って俯く彼女の背中にそっと手を置き、落ち着くのを待った。


 向日葵はハンカチで涙を拭ってから、おもむろに口を開いた。


「ごめんね、取り乱しちゃって……。なんでもないの。――ひとつ聞いていい?」


「なんなりと」


「柊君のご家族ってどんな人なの?」


 僕は一瞬言葉に詰まってから答える。


「両親は普通――というと向日葵には不快かもしれないけど――父がサラリーマンで母は裁縫教室の先生をしてる。あと妹が一人いる」


「そうなんだ……」


「こんなのでいいのか?」


「うん、ありがと」


 僕の家族構成を聞いて何がしたいのかは分からないが、彼女のためになるなら別に構わない。


 そのとき、小学校低学年くらいの男女がワイワイ騒ぎながら空き地に集まってきた。男子の一人はボールを抱えている。小学生たちはひっそりと影に座っている僕らに一瞬だけ目をやってから、何事もなかったかのようにまた騒ぎ始めた。


 まもなく、みんなで靴の先を地面に立てて歩き始めた。ドッジボールのコートを描いているらしい。


 よく見ると、その輪の中にさっきの女の子も混じっていた。溌剌としていて、その笑顔にこちらの気持ちまで和むほどだった。


 ふと向日葵の方に目を向けると、彼女は思案顔になっていた。何か葛藤しているようにも見えた。どう声を掛けていいか分からず、静かに成り行きを見つめていると、彼女がすっくと立ち上がった。


「柊君、ありがとう」


 その目には何か大きな決意が宿っているようだった。


 僕はかぶりを振る。


「僕は何もしてない。力になれなくて申し訳ないぐらいだ」


 今度は向日葵の方が首を振った。


「もういいの。――本当にありがとね」

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