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六 時は流れ

「……」


もうあれから、七年も経過したんだと思うと思うことがたくさんある。

あたしが小鬼達と約束をして、彼等の大将のお嫁さんに、大きくなったらなると言う話になってもう七年の年月が経過したのだ。

その間にたくさんのことが変わっていった。

例えば、お姫様を、今では

「桜子様」

と呼ぶようになったこととかだ。お姫様は桜のような美しさだから、桜子様と敬って呼ばれるようになったのだ。

桜子様は本名を呼ばれることはお父上の、朱雀帝……もう退位したので朱雀上皇様以外からは呼ばれることがない。これで夫となるべき人が現れたらその方には、桜子様は本名をお呼ばれになるだろう。

他にも上臈女房の人達がどんどん入れ替わって、いつの間にやら菫子様のおそばに居る女房の一切合切が、小鬼の知り合いの女鬼ばかりになったこととか。女童と呼ばれるあれこれお使いをしたりする子達が、実は小鬼の仲間が変化している子達で、適当に入れ替わって、他の宮の人とかに気付かれないように動いているとか。

朱雀上皇様は、じわじわと元々の上臈女房の人達とか、中臈女房の人達とかが病だとかなんだかんだでやめていって居ても、桜子様が暮らしている藤壺では、女房の人数が大して減っていないから、実はここにほとんど人間の使用人がいないって言う現実を知らなかったりする。かわいがっていると言っても、彼は他の皇子や皇女達よりも様子を見に来る回数が多いと言うだけで、日常的に見ているわけじゃないから、色々な細かいことに気付いていない。

……宮中の陰陽師達はこの大量の鬼の巣窟に気付いていないのか、と思うかもしれないが、陰陽師達は見て見ぬ振りをしている状況らしいと、あたしはあっちこっちを渡り歩く小鬼達から聞いている。

一匹とか二匹なら騒ぎ立てることも出来るが、十人単位で鬼が、その誰もがそれなりに力のある女鬼とかいう状況だと、調伏する前に自分達が反撃されて力が跳ね返ってきて死んじゃうから、やれないらしい。

それに、桜子様は他の皇子様達以上に高貴なお生まれなので……何しろ帝と内親王の間に生まれた娘、血統的には相当に高貴。でも後ろ盾がない……なので、彼女に鬼が大量についていると知られたら、宮中は阿鼻叫喚の大騒ぎになってもまだましなくらいになるのだとか。

そしてそれを許した宮中の関係者達が、ただじゃ済まなくて、冷泉帝様の治世を疑う騒ぎにもなるとか。

宮中の混乱を防ぐためにも、陰陽師達は黙ってるしかないそうだ。

何しろ、読経を聞いても皆々様気にしないし、苦しまない女鬼なので。

普通の鬼と陰陽師達が思っている鬼は、読経なんか聞くと苦しむし、調伏されるらしいが、ここの皆様はそんなの効果がないんだとか。よくわからない基準だ。

そんな鬼の中で、桜子様はすくすくとお育ちになって、きちんとご飯も用意されるようになって、数えで十三と言う年齢にしては若干小柄でも、数えだから十一回か十回暦を一周してる位なら普通の背丈になってくれて、教育熱心な女鬼さん達の英才教育の結果、和歌も文字も染め物もあれもこれも、何でもそつなくこなすお姫様に育った。

あたしは女鬼さん達に、桜子様より覚えが悪いとか言われまくって、お尻を叩かれる勢いであれこれを学んで、桜子様を守る一番近い女房という立場になったのである。

桜子様が顔をさらすような場面になったら、自分を楯にしてでも桜子様をさらさないという根性だけは手に入れたのだ。

そんなあたし達は、いまだにお人形遊びが好きな方だ。年甲斐もなくとか言われるのだが、あたしはそれなりの年齢になるまでお人形遊びを知らなかったし、お姫様はどうしてもやめられない遊びだ。

何でも出来る桜子様の、ちょっとじゃなくてかわいらしい一面である。裳着が済んだらやめるけれども、大事に櫃の中にしまっておいて、子供が生まれたらお守りにすると桜子様は時々おっしゃる。まだ成人式である、裳着をしていないから、まだ子供だから出来る遊びだと、女鬼さん達は大目に見ている。他が何でも出来るから、かわいい趣味があってもいいだろうという認識らしい。

中でも、一番女鬼さん達の中で美人で教養があって、こんな完璧な女の人が鬼だなんて何の冗談っていう、みやすこさんは、

「裳着が終わってしまったら、否応なく大人の振る舞いを求められるのですから、それまでは遊んであげなさい、つる」

と言ってくる。みやすこさんは裳着とか元服とかで、世間が一変すると言うものをよく知っているらしく、その問答無用で世界が変わる前くらいは、と言う考えで居るみたいだった。

そしてこのみやすこさんが、この桜子様のところで一番の古株の女房という形になっていて、このたび何か朱雀上皇様から相談を受けたらしく、朱雀上皇様の暮らす所に行ってしまった。

「ねえつる。みやすこは何を父上からお聞きになるのかしら」


「なんでしょうねえ、裳着の予定日とかでしょうか」


あたし達はせっせとお人形のお着物をあてがって、ああでもないこうでもないとやっている。桜子様のお衣装への心配りはすごいので、お人形も素晴らしい見た目だ。


「裳着をしたら、わたくしも大人になるのね。でもわたくしには後見をしてくれる母方の親族が居ないから、ここでひっそりと暮らすことになるのね。それとも次の帝の時に、伊勢まで行くことになるのかしら」


「どこまでだって蔓紫はお共いたします!」


「つるが居るならどこだって大丈夫だわ。あなたがいなかったら、私は今こうしていないのだから」


「桜子様……!」


「またつるが感動しているわ」


「つるはすぐに桜子様関連で泣くのよ」


「そうそう。寝起きが美しいって泣いて、机に寄りかかっている様が物語みたいだって泣いて、ご飯を召し上がっていると泣いて」


「泣き虫よねえ、でもわかるわ、つるは桜子様のことをずっと見守っているんだもの」


くすくすと笑う女鬼の皆様。上品で麗しく、鬼と思えない華麗さだ。作り物の様に美しい彼女達は、後宮の花畑とか言われているらしい。

でも全員が、男に文を送られても

「夫が居るので」

「恋人がいるので」

「約束を交わした相手が居るので」

というばっさりっぷりだ。女性は法的に、浮気だめ絶対なので、男のふらふらしたお妾さん遊びに付き合わないのだ。

宮中に居るような男の中でも、後宮まで入ってくるような上達部達は、元服と同時に決定した正妻と結婚しているのが一般的なわけで、彼等が浮名を流す相手は本命にはならない。

彼等が言い寄った相手は、彼等が正妻と離婚してくれなくちゃ、正妻になれないから遊び相手の一人だし、それでいいという人の方が少ないだろう。

どうでもいいが、男は三人の妻を持った方が裕福になれるとか言う話も、あったりする。

真剣に意味がわからない中身だ。

……あたしに言い寄る男? 居ない。居ても文一枚の後は何もない。こっちが返事をする前に手紙が来なくなる。

小鬼達が、あたしに手紙が来ると、手紙を出した相手を鬼流の軽い脅しで怖がらせるんだとかなんとか。


「俺等の大将の嫁になる女の子に、余計な虫はいらねえ!」


「大将と心を育んでもらう!」


らしい。そして鬼の大将という相手に嫁いでも、あたしが宮中で桜子様の傍にいることは当たり前なので、鬼の大将は働く妻に反対しないらしい。

……鬼の大将、手紙すら来ないし、声を聞いたこともないので、一体何が出てくるのか気になるところだけれども、興味があるそぶりをするとここは皆鬼の大将の味方なので、瞬間で結婚まで行きそうなので、あえて素知らぬふりだ。結婚しないとは誰も言ってない。

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