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一 お姫様が生まれるまで

女三の宮ちゃん救済ルート2




その日一晩掛けて、あたしはお姫様に対する言葉遣いなんちゃらかんちゃらを、実の母と主張する人、もうこうなったらおばさまとしか考えられない……このまま認識はおばさまで行くか……という人にみっちり叩き込まれて、さらにお姫様の実情というものまで聞かされる羽目になったのだ。

おばさまは宮中では結構位の低い女房で、これでもあたしの生きてきた世界より遙かに格上なわけだが、とりあえず宮中ではそれでも低いという認識でいるのだが、そんなおばさまはとあるお姫様にお仕えしていたそうである。

そのお姫様こそ、あたしが遊び相手としてこの場所に連れてこられる理由の女の子の、母君だそうな。

その母君を、皆は藤壺の女御と呼んでいるらしい。まあ自分の真実の名前を知られたら、命を握られるような世界が宮中であるわけで、女の人は男の人と違って、自分の名前を世間に広めないと言うのが常識だ。位の高いやんごとないお妃様という相手を、皆が暮らしている所にちなんで呼ぶのはおかしな話ではないのだとか。

その藤壺の女御様は、今の帝の、朱雀帝様の女御で、ちなみに女御というのは中宮のつぎに格の高い、皇族出身の姫や大臣級の家の娘が、帝の元に入内……つまり後宮入りする事になったら与えられる身分だそうだ。おばさまはかみ砕いて説明してくれたので、あたしは


「寵愛されまくったら中宮という最強の立場になれるお妃様の条件の一つ」


という覚え方をすることにした。おばさまは頭を抱えそうだったが


「事実なので仕方が無い」


そう言ってあたしに、それ以上の細かい説明をしないでくれた。頭から湯気が出そうなくらい大変な説明が多かったのでこれは助かった。

この藤壺の女御様は、前の帝の桐壺帝が中宮として選んだ后、かがやく日ノ宮様の妹と言うとんでもなく高貴な身の上であらせられるらしい。日ノ宮様は下々の噂にすらなった程、有名な中宮様である。

身分が低すぎて、桐壺帝に愛されまくった結果多方面から恨みを買い、衰弱して死んでいった桐壺の更衣様と、そっくりで、でも身分は誰も文句の言えない皇族出身というお立場の女性だ。

この女性は、桐壺の更衣様が産んだ第二皇子だった、下々の間でも超有名人で最強の色男日光源氏様が、幼少期に光る君と呼ばれた際に、並んでかがやく日ノ宮様と呼ばれた、きっと美しさは後宮一番なんだろうな、と言われていた女性である。

通り名くらいは知っているわけだ。下々は貴族にお仕えしている知り合いが結構いるので、噂はある程度知る事になる。

母ちゃんも、好きな男は父ちゃん一人でも、美男子の噂はそれなりに拾ってきていて、父ちゃんにやきもちを焼かせていて、でもおしどり夫婦でとっても仲良しである。

そんなのはさておき、とにかく、藤壺の女御様は藤壺の中宮様の年のやや離れた妹でいらっしゃって、でもお姉さんと違って、帝の寵愛がそこまででは無かった人なのだという。

その理由として挙げられるのが、朱雀帝のお母さんである、弘徽殿の女御様の、六番目の妹である超絶美人の朧月夜姫が、朱雀帝の寵愛を一身に受けている存在だったから。

この朧月夜姫は、光源氏とこっそり深い仲になっていて、入内は取りやめになったけど、内侍にはなって、その華やかな美貌とか明るい気質で、朱雀帝に一番愛されていたのである。

しかし朧月夜姫は帝の愛が会っても光源氏と関係を切らず、今から八年前にそれが発覚し、お姉さんの弘徽殿の女御に激怒されて、いったん宮中に行くことを禁止されたそうだ。

そして……その朧月夜姫が宮中にいない間の二年間だけ、朱雀帝が手を出したのが藤壺の女御様で、彼女はご懐妊して……でも念願だった帝になれるかもしれない男の子は生まれることなく、おばさまが乳母としてお仕えするに至ったお姫様が誕生したのだそうだ。


人間関係で頭が壊れそうだが、覚えておいて損はないのだとおばさまが熱意を込めて語るので、あたしは我慢して覚えた。


「愛され朧月夜姫が帝から寝取られてたことが発覚して、ほとぼりが冷めるまで宮中にいなかった。その間の二年間の間に藤壺の女御様がご懐妊したのがおばさまのお姫様」


である。

間違いじゃ無い。これを聞いてもおばさまは頭を抱えそうだったが、間違ってはいないと言うので、これで覚えておくことにする。


そういった経緯で生まれた、身分と生まれは間違いなしなお姫様はしかし、悲しい身の上なのだという。


それは生まれてすぐに朧月夜姫が宮中に戻ってきて、朱雀帝の方もそっちに気をとられがちで、他の姫よりは出自が格上だから大事にされているけれども、実際には母親不在という事実もあって、粗雑に扱われることになったからなのだとか。

おばさまが乳母って時点でそれははっきりしているらしい。乳母って、女御の姫君の乳母ならもっと位の高い女房様がうけおうらしいが、おばさまと言う下級女房が担当しているって時点で、粗雑な扱いが見えているらしい。

そして、お世話係の女房達は、主人からお下がりの贈り物とかが、赤ちゃんだから何にも無いから、と適当に世話し続けて、帝がやってくる時だけ、丁寧に着飾らせて座らせたのだとか。

それ以外は結構放っておいたらしくて、お姫様は一人お人形とともに暮らしているらしい。

おばさまの方は、お乳がいらなくなった時点で、お姫様から身分故に遠ざけられたんだそうだ。

そのため、我が子のようにお乳を与えたお姫様のことを案じながらも、様子をうかがうことも、助けてあげることも出来ないで、こうして今に至ったのだそうだ。

これもあたしはかみ砕いた。あたしに簡単な説明をする気が無いおばさまだから、頭の中でまるっと忘れないようにかみ砕いた。

「生まれた時点でお母さんが死んで、うまみが無いから軽く扱われがちなお姫様に育ったのがおばさまのお姫様」

である。帝って忙しそうだし、後宮でかしずかれているはずの自分の娘が、そんな適当に扱われているなんて普通思わないだろうから、自分のいるときは丁寧に扱われている娘だから、それ以外も丁寧に扱われているだろうと思っても、何ら変な話では無い。

これが、あたしに説明された事前情報なのである。

お姫様自体の情報は、とか聞いてみたけれども、おばさまは


「わたしすらお姫様にあまり近寄れないものだから、伝聞が多すぎて不確定すぎて、なんとも言えないのですよ」


と悔しそうに言っていたのであった。

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