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活路

 その晩はとても寝られたもんじゃありません。

 油断すれば、例のヤツらに体を乗っ取られそうな気がしましたからね。

 漫画を読んでみたり、イヤホンで音楽を聴いたりしながら夜を過ごしました。もし相手が霊的なものなら、少しでも気分を明るくしていた方が良いんじゃないかという、中学生的な発想です。


 しかし、そんな状態でどんな漫画を読んでも、どんな好きな音楽を聴いても気が晴れるわけはありません。逆に、その夜に聴いた音楽や読んだ漫画は、ストレスの思い出として焼き付いたので、しばらく触れられなくなったもんです。

 とにかく私は自分の部屋で一人、長い夜を過ごし、夜が明けると「部活の朝練があるから」と嘘をついて、早々に家を出ました。


 まず、向かったのは山田の家です。朝早く迎えに来たことを、彼の家の人に何と言おうと考えながら来たのですが、意外にも山田も既に支度を終え、家を出るところでした。そして、なんと、田中も一緒にいました。

 それで、だいたい事情が分かりました。


「やべぇよ!病院に行ってる場合じゃない!」

 誰からともなくそう切り出し、3人で神社に向かいました。

 やはり、三人とも一様に同じ夢を見たようです。


 夜のうちにまた吹雪いたのでしょう。

 道路と言う道路は、全て雪で覆われていました。そこかしこで、家の前を雪かきしている人がいます。そうしなければ登校や通勤に支障があるので、これが雪国の朝の当たり前の風景なんです。


 ふと救急車のサイレンが遠くで聞こえました。

 いつもなら、雪で転んだとか、屋根から雪が落ちてきてとかを想像するのですが、私達は別のことを考え、自然に神社へ向かう足が速くなりました。


 神社も多分に漏れず、昨日女性が雪かきをした境内までの道は、すっかりまた雪で埋まっていました。そして、また、彼女は昨日と同じ格好で、同じあたりを雪かきをしています。


「あっ!」

 女性は昨日とは違い、すぐに私たちに気が付きました。

「ちょっと待っててね、おじいちゃん呼んでくるから!」

 そう言って、奥の方に入っていきます。


 間もなく、一人の老人を伴って戻ってきました。

 もっとも、彼女が「おじいちゃん」と言ったからそう思っただけで、言われなければ、すぐには老人と気が付かなかったかもしれません。

 分厚い防寒用のコートと長靴を纏ってさえ、その中の姿勢に一本筋が通っているのが伺えますし、歩く足取りは不思議なリズムと安定感がありました。

 軽快とも言えるし、どっしり力強いとも言える不思議な足取りです。朝の柔らかく深い雪の中においても、舗装道路を歩くのとなんら変わらないスピードで、隣の(おそらく年齢は半分以下の)女性の方が歩くのに難儀しているように見えたほどです。

 

 何よりも異様だったのは、その気配といいますか・・・

 失礼を承知で言えば、雰囲気が似ていると思いました。あの、人ならざる笑いをしている時の佐藤や山田に・・・


「聞きましたよ。ごめんなさいね。怖かったでしょう」

 私たちを見て、開口一番老人はそう言いました。

 そして、一人ずつ私たちの頭に手を置きました。

「大丈夫ですよ」

 老人のその、たった一言を聞くと、それだけで昨日の夜から心の巣食っていた何かが、軽くなった感じがします。


 気が付けば、私は涙を流していました。それが次第に嗚咽に変わります。

 山田も田中も同様でした。


「大丈夫ですよ。大丈夫」

 私たちが落ち着くまで、老人はそう言いながら、私たちの頭や肩、背中を撫でたり、軽く叩いたります。その度にどんどん何かが抜けていく感じがします。


 私たちが、完全に落ち着くのを見て、老人は言いました。


「佐藤君の家に案内してもらえますか?」

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