寄生
騒動があった翌日から、佐藤は学校に来なくなりました。
サッカー部もしばらく活動休止になります。
私たちは、何人かの先生に尋問を受けました。
間もなくして、学校はいくつかの『伝統行事』の禁止を通達しました。
佐藤は行事を起因とする何らかのストレスにより、精神に異常をきたしたというのが結論のようです。
「なんだよ、アイツらの手のひら返し」
帰り道、私は毒づきます。これまで「感心!感心!」とか言って高みの見物をしていた教師たちが、急に例の行事を『馬鹿げている』『意味の無いシゴキだ』と否定したからです。
しばらく教師の悪口に華を咲かせた後、話題は佐藤にうつります。
「アイツ、まだ治らないみたいだな。お前はもう何ともないの?」
田中が山田に聞きました。もう、私たちは裏では上級生達は呼び捨てだったり、アイツ呼ばわりするような扱いをしていました。
「うん。。。今は大丈夫だけど。。。」
山田は少し口ごもったように答えます。
「やっぱ、完全に山田から佐藤に乗り移ったのかな?例のヤツ」
私が言いました。
「例のヤツって?」
山田が聞きました。そういえば、私も田中も、山田には話していなかったのです。なんとなく、当事者には言いにくかったので。。。
しかし、ここ数日、すっかり普通になった山田を見て、そのことを忘れていました。
私は田中を見ると、田中も頷きました。それを受けて私が話しました。
「田中が見たっていうんだよ。浜でお前が吐いた時さ、その中に何か黒い動く者があったって。そんで、それが佐藤のズボンの裾に入って行ったって」
私は田中を見ました。何かあれば補足してくれという感じで。
「ああ。まぁ、今となってみれば、暗かったし、何かの見間違えの気もするけどな。。。でも、そんなの見たと思うんだ」
「やっぱりそうか・・・」
おそるおそる、気を使いながら話をした私たちを他所に、山田は妙に納得したように言いました。
「やっぱりって、何が?」
「オレ、何も覚えていないって言ったじゃん。それはホントなんだけどさ。佐藤が笑っているのを見た時、少し思い出したんだ」
「どのヘンを?」
「浜辺でオレも笑ってただろ?あの時の感覚を」
山田は『感覚』と言う言葉を使いました。
そう、この後随分と、色々話を聞いたり、私達も質問をしたりしたのですが、ひどく感覚的な話で、なかなか理解するのに難儀しました。だから会話の詳細は省略します。
山田は、例の笑いをしていた時、やはり霊的な何かに取り憑かれていた感覚があると言いました。
そして、その霊達の、感情のようなものが感じ取れたと。
それは別に、怨みとか呪いとか憎しみのような感情ではなかったようです。
そんな高度な、知的なものではなく、もっと原始的な欲求のようなものだったと。
そう。その彼らにとって我々は、怨みの対象ではなく、欲求の対象とのことなんです。
どんな欲求かというと、我々に寄生して、餌として貪りながら繁殖していきたいと。そういう欲求に感じられたと山田は言いました。
そんな気色の悪い話をした後で、山田は更にぞっとすることを言いました。
「たぶん、そいつら、まだオレにもいるんだ。そして、また少しずつ増えている。。。ひょっとしたら、お前らにもいるかもしれない」