笑い
山田でした。
ボールを脇に抱えた山田が、こけし人形のように直立で、佐藤の後ろの立っていました。
全身ずぶ濡れで、髪からはまだ海水が垂れ続けています。
山田はそれを拭おうともせず、ただ立って、表情の無い目で奇妙な笑いを続けていました。
「あ゛あ゛あ゛ああアアはハハはあhhあああはははははははは」
最初機械音のようだったそれは、チューニングを合わせるように徐々に笑い声になっていきます。
「てめぇ!笑ってんじゃねぇ!心配かけんな!」
佐藤が言いました。
山田の異変に気付かないわけはありません。先輩の威厳を保つ為の精一杯の虚勢だったのでしょう。
「はははhhっはははははははははははははははははは」
山田は相変わらずの表情のない目で佐藤を見ます。
「ふざけんな!」
佐藤は山田の頬を平手打ちしました。グリンと勢いよく山田の首が真横を向きます。首がねじ切れたんじゃないかと思うほどでした。
笑い声が止まりました。
佐藤が頬を張った『パァン』という音の残響が、いつまでも残っているように感じました。それほど辺りは急に静まりかえったのです。
山田はゆっくり佐藤の方を向きました。壊れかけの玩具の人形のように、本当にゆっくりと・・・
「なんだ!なんか文句あるのか!?」
佐藤は怒鳴ります。
山田は何も答えず、じっと佐藤の目を見たまま一歩近づきました。
佐藤は一歩後ずさります。するとまた、一歩近づく山田。
また後ずさる佐藤。
その光景は山田が佐藤を海へと追い込んでいるようにも見えました。
とうとう、あと一歩で海というところまで来ました。
「お前、いいかげんに!」
「うろろろろろろろっおおおぶえ゛え゛え゛え゛え゛」
「うわっ、きったね!」
山田が嘔吐したのです。
何か黒い物を大量に吐きました。
そして、そのまま山田は倒れて意識を失いました。