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タイトルは面白そう

作者: 能登慧

夕暮れ時、ベランダで一人過ごすのが美月の日課だった。小さな鉢植えのミントに水をやり、街の灯りが一つずつ点いていくのを眺める。

日中は仕事に追われ、人と話す時間もない。ベランダは唯一の外の世界と繋がる場所だった。

ある日、ふと視線を向けると、隣のマンションのベランダに誰かがいた。若い男性が煙草を吸いながら、彼女の方向をぼんやりと見ているようだった。美月は気まずくなり、目をそらした。

次の日、また同じ時間にベランダに出ると、彼が再びそこにいた。煙草を吸うわけでもなく、ただ立っている。そのうち、ふいに彼が手を軽く振った。

美月は驚いたが、少し迷った後で小さく手を振り返した。それだけのことなのに、心が少しだけ温かくなった気がした。

それから数日間、彼と美月の間には「挨拶」が続いた。お互い名前を知らないまま、会えば手を振る。それ以上の会話はないが、孤独な日々に明るさが差し込むようだった。

ある日、美月は自分のベランダに置いてあるミントを見て、ふと思い立った。小さな鉢を一つとり上げ、隣のマンションのベランダに向けて「どうぞ」とジェスチャーを送った。彼は最初、戸惑った表情を見せたが、やがて嬉しそうに笑い返した。

次の日、彼のベランダには、新しい鉢植えが一つ置かれていた。それは彼女が渡したミントで、隣には小さな紙が置かれていた。「ありがとう。名前は青山です。」そう書かれていた。

美月は微笑みながら、自分も紙に「美月です。どうぞよろしく」と書いて、ベランダに置いた。こうして彼女と青山のベランダ越しの交流が始まった。

二人は直接会ったことはなかったが、お互いの日常の一部を少しずつ共有し合った。彼がベランダに置いた新しい花の名前を教えてくれると、美月もそれに応じて自分の鉢植えを増やした。

ある夜、久しぶりに雨が降った。美月はベランダの外を見ていたが、彼の姿が見えなかった。少し寂しい気持ちになり、窓を閉めようとしたその時、隣のベランダに一つの小さな光が見えた。彼がランプを置いて、そこに「また明日」と書かれた紙を添えていたのだ。

美月はそのメッセージに胸がじんとした。お互いに声を交わすことはない。それでも、この小さなベランダから始まった繋がりが、心を支えてくれているのを感じた。

「また明日。」美月はそうつぶやいて、静かにベランダの椅子に座りなおした。ベランダの向こうには、いつでも新しい光が待っているような気がした。

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