4.親子
時間はお昼時。
街には食べ物のいい匂いが立ち込める。
人混みを掻き分けて僕は家路をいそぐ。
少しでも早く父に知らせたい。
…
バン!!
屋敷のドアを勢いよくあける。
「ただいま帰りました!」
僕は大きな声で帰りを知らせる。メイド達への挨拶もそこそこに、父の元へ一直線だ。
ノックをし、父の部屋を開ける。
起きてはいないが、はやる気持ちを抑えきれず、父へ報告する。
「父上、無事に祝福の儀が終わりました。」
やさしくその言葉を発した時、ここ一カ月、寝たきりだった父が、とてもゆっくりと目を覚ました。
突然の出来事に、僕の心臓が跳ね上がる。
「おはよう。ジャック。今日も元気そうで何よりだ。」
とてもとても小さな声ではあったが、ハッキリとした口調であった。
ガシャーン
部屋の扉の前で飲み物を持ってきたメイドの1人が驚きの余り、食器を落とす。
僕は一瞬、顔をそちらに移すが、再び父の方に向ける。
慌てて廊下を走り、大声で皆を呼ぶメイド。
「おはようございます。父上。先ほど無事に祝福の儀が終わったのです。」
再度、問いかけてみる。
「そうだったのか…。おめでとう。嬉しく思う。」
優しく微笑んでくれる。
「それでですね!何と、今まで前例の無いギフトを頂いたのですよ!結界師と言うそうです!父上は何かご存知ですか!?」
父は剣聖のギフトを得た冒険者だ。病に伏せる前までは現役で、各地に数多の伝説を残している。
「結界師…王都中央図書館の古い物語に名前だけ出ていたような…すまん。昔の事で思い出せない…」
「そんな、謝る事ではございません!知っていただけでも嬉しく思います!」
僕はとても嬉しくてついニコニコしてしまう。
そんな僕に父は、弱々しく、だけどしっかりと頭を撫でてくれた。
補足:この世界では一年を300日、一月を30日でカウントしています。