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人類は滅亡しました

作者: クロ

人間が一人も出ないお話

 





 機械は基本的に正確だが、稀にミスを起こす。


 いや、それも元を辿れば設計した人間のミスであり、やはり機械は間違わない。


 ともかく想定外の事態には、人の手による修正が必要となる。


 だが当然人が困るから修正されるのであって、困らない間違いは直されない。


 例えばそこに人がいなければ、間違えも正しさも意味を成さない。


 例えば、世界から人がいなくなれば、そこには正しさも間違いも存在しない。


 ☆


 XXXX年、人類は滅亡した。


 少子化の流れをなんとか食い止めなければならない。

 それは誰もが分かっていたことだ。


 だが今際となっても民主主義国家は勿論、独裁国家でさえ思い切った政策をとらなかった。


 未来にあるのは空飛ぶ車でもホログラム通話でもなく、ただ人口が減少し全てが先細りしていくだけの夢のない現実だった。


 他にも感染症、温暖化、社会舵取りの下手さ等の問題はあったが、一番の原因はともかく少子化だった。


 そうして人類は予定調和的に、緩やかに滅んだ。


 無人の家は腐敗すると云うが、それは過去の話。

 現代では円型マシンが壁や階段の隅々まで自動清掃し、害虫や害獣の駆除まで行う。


 建物、街中、そしてメンテナンスでも同様だ。

 かつては凡そ作る側の人間の事が考えられていない設計により、極めて危険な場所での作業が横行していた。


 それも機械なら難無く熟してしまう。

 万が一に難があったとして、問題にもならない。


 故に人が存在しなくとも、街は綺麗で清潔だった。


『ヵカンカンカカンヵンヵカカンンカカンヵンンヵカカンカカンンンカカンンカヵヵンンカヵンンカンン』


 ふと、妬ましくサイレンが響く。

 どこかで火災が発生したようだ。


 道行く車は一列に並び、消防車が素早くその車線を横切る。


 運転席に人はいない。消防車にも一般車にも。

 衛生カメラによって即座に火災情報が入ると、消防車は自動運転でそこへ向かうよう設定されている。


 火災の元は太陽光パネルだった。

 山部に多数設置されている為、対処が遅れると大惨事になる。


 勿論発火の可能性が高い時は自動で発電を切るようになっていたり、付近にスプリンクラーがあったりもする。


 現代ではそういったものとセットになった太陽光パネルが主流だが、今回発火した物はそれらがない旧式だった。


 少しすると、消防車の付近には避ける車も曲がり道もなくなった。当然ながら歩行者もいない。


 AIが衝突の可能性がない状況と判断。

 スピードを極限まで上げ、素早く目的地に到着し消化を開始する。


 一連の動作がスムーズさが項を成し、被害は野焼き程度で収まった。


 こういった事故は人間が存在していた頃に比べ非常に稀であり、その対処も早さも段違いだった。


 消防車が通り過ぎた後、一般車は運転を緊急時から通常モードに切り替える。


 消防車と違い、この車達に目的はない。

 いや、あるにはあるのだが、それはAIのエラー、もとい設計ミスだ。


 それには二種類ある。

 一つは開発者のミス。

 もう一つは利用者のカスタマイズミスだ。


 故に公共的な物以外では、こういったエラーは比較的起こり易い。


 とある車は燃料が切れそうなので、電気スタンドに向かう。

 車、清掃ロボ、他の全てもエネルギーは自然的で再生可能なものを素としているので、尽きる事はない。


 エネルギーを補給した車は何処となく再出発し、映画館で止まる。


 人影一つない暗室で一つの物語が大きなスポットライトを浴びている。


 それが幕を閉じスタッフロールが流れると、部屋に柔らかな光が戻る。

 だが直ぐに暗転し、別の物語が始まる。


 このエラーを止める人間は存在しない。


 観客のいない舞台で、魅力的な人物達は永遠に劇的な運命を踊り続ける。


 とはいえ夜になると、エラーによるものでも殆どの作業は一旦停止する。


 そして清掃やメンテナンスが始まる。

 店内の明かりは消え周囲を照らすものはないが、機械には関係ないことだ。


 スーパーではこの間にロボが品切れを補充し、賞味期限切れの食品は廃棄するよう設定されている。


 食する人間がおらずとも、とある工場とその搬送車は動き続けている。


 そこから入る食品を並べ、賞味期限切が過ぎれば廃棄。これを繰り返す。


 店頭に並べる数に従って生産量が調整されているので、過度に入ってくる心配はない。

 最もこれでも過度なのだが。


 コンビニの明かりは真夜中でも途絶えない。

 そこへ稀にロボが来店する。


 生前の主人に買い出しでも設定されていたのだろう。


 その主人は年金受給者であり、毎月自動的にお金が振り込まれる。

 勿論死亡した場合は通常止められるのだが、その止める者が存在しない。


 ロボは酒とつまみ無人レジに置き、バーコードを読み取らせ会計を済ませる。


 そして主人の住むマンションに戻り、入口で暗号を入力して扉のロックを解除。

 エレベーターに乗り〝3〟を入力する。


 その階の2号室の前に着くと、掌を翳し個人識別情報を出力。部屋のロックを解除する。


 明かりを付け、無人のテーブルに酒とつまみを置き、テレビを付ける。真っ暗な画面が永遠に続く。


 その後風呂を沸かし、掃除し、賞味期限切れの食品をゴミの種類に分けて廃棄。

 廃棄物は定期的に収集される。


 月が登り切った頃、漸く部屋の明かりは消える。


 ☆


『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ』


 翌朝、各家で妬ましい音が響く。

 亡き主人を起こそうとするアラームだ。


 だが起きる者は誰もいない。


 アラームは騒がしく、虚しく、長らく響き続ける。


 各所でポツポツと店頭が機械的に開く。


 工場が機械的に作動する。


 車が機械的に走り始める。


 ロボが機械的に動き始める。


 電車が時間通りに到着する。


 時計の針は動き続ける。

 正しさも間違いも何もかも失われた世界で、ただ時だけが動いていた。


 そして稀に、機械的なエラーが起こる。


 それは深刻なものもあれば、面白可笑しいものもある。


 ただ惜しむべきことに、それを観測する人間は誰一人いないのだった──













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