表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4話

 ☆ 〇    ☆


「で、何で今になってもバッジつけてるの?」


 話を今に戻す。エリオットが大人になっても私がカエルのバッジをつけてるのを不思議がるお時間。


「私こそ不思議なのよ」


 私はそう返した。


「どういうこと?」


「このバッジをつけてるとね、なぜか裁縫技術があがるのよ」


「嘘だな」


「ううん。ほんと」


「それならまるで僕の魔法が効いているみたいじゃないか。僕の魔法はね、誰か他の人の行動に影響を与えられるような威力じゃないよ」


「わかってる。けど……ほんとにそうなんだもん」


「ま、そうなら素晴らしいことだから、それでいっか。でも、僕に提案があるんだ」


「提案?」


「そう。新しいバッジをつくったから、カエルのははずして新しいのをつけない?」


 エリオットはなにやらバッジを取り出した。


「これって……三国の中で最も武術に優れた人に授与されるバッジじゃない!」


「大正解。僕の裁縫技術も極めるところまで来てね。まあ、自動裁縫装置を発明したアイラには敵わないけど」


「てことは……そのバッジの制作を依頼されるにまでなったのねエリオット!」


 私はエリオットに抱き付きそうなくらい喜んだ。

 「居残り組」だった私たち。お互いすごい出世じゃない!


「そうなんだ。だからこれをアイラにあげようと思う」


「えっ、嬉しいけど、それは流石によくないんじゃないかしら?」


 三国の中で最も武術に優れたと認められバッジを授与された人は、プロポーズしたい相手がいた場合、そのバッジを渡す伝統がある。


 だからいくらそのバッジをエリオットが作ることができたとしても、それを誰かに渡すのは、正式に授与された人の特権な気が……。


「あ、いい忘れてたけど、このバッジ、僕に正式に授与されたものだからね。自分で作って自分に授与ってこと」


あ、なんだそういうことか。


「んんんんん? ってことはエリオット、一番武術に優れてるの?」


「そういうことになるな」


 し、信じられない! けど確かによく見たら、前に会った時よりも明らかに身体が鍛え上げられている……!



「驚かせてしまったみたいだけど」


エリオットはそう言って一呼吸置いて、私を見つめ。


「今日はアイラに婚約を申し込みに来たんだ」



 ああ。


 いつの間にか、イケメンなだけじゃなくなってるじゃない。


 ううん。元々イケメンなだけじゃなかったわね。やっと最近努力が実を結んだってだけ。


 私はうなずいた。


「是非、私と婚約してください」


 エリオットがカエルのバッジを外して、新しいバッジをつけた。


 その途端、私にかかっていた魔法が消えていく感触があった。


 ああ。そうか。きっと今、本物の恋になったんだなって思った。




 その後の展開は早かった。


 エリオットと私の婚約は、「居残り組の結婚」などと言われることはなかった。


 エリオットはもうすでに三国一の好青年と認められていたのである。

 私は私で、自動裁縫装置の発明以来、そういう界隈からは信頼を受けていたので、むしろ、ひどく婚約破棄されたことを心配してくれている人がいっぱいいたことがわかった。


 そんなわけで私たちの婚約は祝福ムード。


 ちなみにビクトルとローレンはそこそこ上手く行ってるらしい。


 信じられないけど、ビクトルの見栄っ張り癖を一からローレンが叩き直してるらしいのだ。


 ローレンは強く美しく、やっぱり敵わないと思う。


 でもそういや、疑問が残っていたね。



 ある日、ベッドの中で。


「でもどうして、あの時エリオットはカエルのバッジを作っていたの?」


 私は訊いた。


「……幼いころ父に旅に連れて行ってもらった時、砂漠のオアシスで暮らすカエルに出会ったんだ」


「砂漠にカエル……?」


「信じられないだろ。けどいたんだ。父は教えてくれた。ここに住むカエルは、オアシスが干上がりそうになると、必死に砂を掘って薄く広がった水を集めるんだと」


「何のために……?」


「子どもたちを守るためさ。オタマジャクシは水の中じゃないと生きられないからね」


「すごいわね」


「魔法が三国で一番弱い僕に、父は言ったんだ。自分の信じるものを極め、そして大切な人を守りなさいと」


「……」


「その日、僕は決めたんだ。自分の信じるものを見失わない証として、カエルのバッジを作ろうって」


「なるほど」


「僕はアイラとこうして幸せになれたんだから大正解だ。それに、僕は絶対に守ってみせるさ。君も、僕たちの子どももね」


 そうしてエリオットは私を抱きしめた。


 そのエリオットがあったかくて、私はつぶやいた。


「カエルってちっとも醜くないんだな」


と。

お読みいただきありがとうございます。もしよろしければ、評価などをいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ