2話
そんな中、色々と諦めて一人でのんびり暮らすことにした私だけど、ちゃんと仕事もしてる。
私の仕事は裁縫。
実は私のいる王国も含め、魔法の力というのは、だんだんと落ちてきている。原因はわからないけど、歴史を振り返るに多分使いすぎたわね。
だから物を作る時も、手作業でできる技術が重宝されるの。
私も裁縫の技術は、幼い頃にある人から教えてもらった。
あと最近、私は大発明をした。
自動で縫い進めてくれる機械を、職人さんたちと連携して開発した。
まあどこか遠い国ではすでに同じものがあるかもしれないけど、私の知る限りは私たちが一番最初ね。
で、だから私は婚約破棄されても別になんてことない。色々と容姿のことを噂されるのだって、中身が完璧すぎてそこしか言うところがないんだなーって思うわ。
というわけで、悠々自適に過ごしていたら、なにやら訪ねてきた人が騒ぎを起こしているらしい。名前を聞いてみれば……。
「ルスオール王国の第二王子のエリオットですって⁈」
私は窓からびゅおんと顔を出した。
見てみればお城の入り口で何やら主張している人が。
「中に僕の婚約者がいるんだよ。会わしてくれよ」
「そうは行きません。貴方、自分の魔法証明書はどうしました?」
「そんなの元からないんだ。だって僕は魔法がろくに使えなくて証明書を出せないんだから」
あらあら。エリオットが困ってる。これは私が助けに行かないと。
部屋を飛び出してお城の階段を降りながら私は考えた。エリオットの言う婚約者って誰……?
わからないからなんだろうけど、なんかむずむずするのよね。
でも、いまはとにかく、エリオットを助けなくちゃ。
「エリオット!」
入り口まで走っていって呼び止めると、エリオットが嬉しそうに笑って、
「あっ、アイラじゃないか! あの人が婚約者です!」
って私をさした。
んん? 私、婚約者なの? どういうこと?
ちょっといずれにしろ、話を聞かないとね。またエリオット、マイペースに色々と考えを進めてそうだから。昔みたいに。
ひとまず私の許可でエリオットには中に入ってもらうことにした。
二人で庭園のベンチに座る。
「助かった…あんなに警備が厳重になってるなんて想像もしてなくてさ」
「騒がしいわねほんと。しかも相変わらず魔法証明書を出せないの?」
「しょうがないだろ。ちなみに日常生活ではほとんど使わないから問題なし!」
エリオットはやたらと開き直っていて、しかもイケメンなのでなんか逆にダサい。てか容姿はいいんだから落ちついて入ってきて欲しかった。
そしたら…「あっ、あの人が婚約者です!」って言われた時とか、百倍くらいドキドキしたんじゃないかなあ。
ちなみに魔法証明書っていうのは、この辺りの地域一帯の人たちがみんなそれぞれ違った魔法陣を出せることによる本人確認のことね。
指紋認証よりも確実で予算も少なくできるから、色んなところで行われているんだけど、エリオットは魔法が弱すぎて、魔法陣を出すことができない。
いや、エリオットは昔からそうだったから慣れっこなのかもしれないけどさ。
こうしてお城に入るのも一苦労なのは大変ね。
「婚約破棄されたんだってな」
「ええっ」
しまった。不意打ちすぎだよ。
「噂で聞いたんだ。でも相手に恋に落ちていなかったんだろ?」
「当たり前よ。すっごい見栄っ張りで、婚約者のスペックとかめっちゃ気にする人だったわ」
「あ、なら婚約破棄されちゃうか……うぐぐ、やめてくれっ」
「失礼なことをすらすら言うわねあんたは」
エリオットの腰のつぼを刺激してやったら思ったよりも痛かったみたい。
裁縫に挫折したらマッサージ師になるのもいいかもね。
「でも、助かった。アイラが素敵な女性だってバレてたら、誰だっけ、えーとビクトルとかってやつも、上辺だけの優しさを君に振り撒いてたかもしれないからね」
「さっきと言ってることが違うわね?」
「違わないよ。スペックっていうのは肩書きとかのことだから。君は魔法の威力が三国の人々の中で、僕の次に弱い。それに、僕はちっともそうは思わないけど、妹のローレンの方が美しいと言われているだろう?」
「まあ確かに、それは事実ね」
「だから会いに来たのさ。だって君が悲しんでいたら僕が助けると決めたからね。さあ婚約して幸せになろう」
「いやちょってまって流れが早いって。あと、私悲しんではないわよ?」
「ほんとに? 変わってるなあ。人間どんなに性格悪い人に性格悪いこと言われたって、悲しくなるもんだよ」
「そういうとこ理詰めしてくるの、嫌い」
でもエリオットってそういうこと言う人だから。幼いときもそうだった。
だから私は、エリオットの胸に、ちょっと涙をつけさせてもらった。