パスワードは『秘密』
おじいちゃんが死んだ。
夜明けに病院から電話が来て、私はママに起こされた。
ママは泣いていた。
おじいちゃんの顔は、穏やかで寝ているみたいだった。
微笑んでいるようにさえ見えた。
ここ一年間の闘病生活が嘘みたい。
おじいちゃんはガンで、痛い時も苦しい時もあったのに。
親戚一同がおじいちゃんの家に集まった。
おばあちゃんを中心に、遺影を選ぶことになった。
お茶の間が人や物でごった返しになった。
アルバムや携帯電話の画像を持ち寄って、どれにしようとみんなで悩んだ。
その時、ママが、
「ねえ、おじいちゃんのパソコン、パスワードが分からないわ。」
と言い出した。
「おじいちゃん、写真が趣味だったから。もしかしたら色々画像データも入ってるかもと思ったんだけど。」
するとおばが、
「そうね。それにいずれはそのパソコンもデータ全消去して廃品回収に出さなきゃだし。」
そこへおじも、
「じゃあなおさら、パスワード分からないと困るな。」
…というわけで、遺影選びはどこへやら。
みんな、パスワード探しを始めだしてしまった。
まず、おじいちゃんの生年月日を入れてみた。
途端に、『パスワードが間違っています』と赤文字が出た。
同時に『パスワードのヒント』も出て来た。
親戚一同でパソコンの画面に記された文字を読むと…
「「「『パスワードのヒント』は…『秘密』?」」」
みんな、バッと振り向いて、おばあちゃんを見る。
「お母さん、お父さんのパソコンのパスワード、知ってる?」
ママが勢いのあまりに『おじいちゃんおばあちゃん呼び』を忘れて、おばあちゃんの足元に駆け寄った。
座椅子に座ったおばあちゃんは、手でママを押しのけた。
おばあちゃんは一言、
「秘密。」
と言った。
「秘密じゃなくて!」
「パスワード分からないと困るの!」
「おばあちゃん、教えて!」
おばあちゃんは、また、
「だぁかぁらぁ〜…『秘密』ぅ〜!!」
と大きな声で言った。
そこで私が閃いた。
『himitsu』
とパスワードを打ち込むと…
「「「あ、合ってた!!!!」」」
なんとログインできた。
画像フォルダは、おばあちゃんの写真ばかりだった。
若い頃から、こうして歳を重ねるまでの…
笑うおばあちゃん
はにかむおばあちゃん
テレビを見るおばあちゃん…
どれもこれも、愛に溢れた写真だった。
みんなは声を失い、おばあちゃんは真っ赤になった。
おじいちゃん。
おじいちゃんの、おばあちゃんへの愛は、『秘密』にできないくらい、大きかったみたいだよ。




