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名探偵の妻  作者: 菱川あいず
第一の殺人
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死刑執行

 本日、日本で十六人目の女性死刑囚の、死刑が執行された。


 沓庵くつあん吉永よしなに死刑判決が下されたのは、ちょうど十年前である。


 もっとも、死刑執行のニュースは、日本社会全体ではなくとも、少なくともその一部に対しては、強い衝撃を与えた。



 なぜならば、吉永は、一貫して犯行を否認しており、その態度は死刑判決が下された後も変わっていなかったからである。



 吉永に掛けられた容疑は、X県J村において年に一度行われる祭りにおいて、村人に振る舞われた豚汁の中に猛毒のヒ素を混入させ、六人の死者を出した、というものである。



 この事件は「X毒豚汁事件」として、当時、連日連夜報道され、「毒豚汁」がこの年の流行語に選ばれるほどであった。



 事件発生から三ヶ月後に逮捕された吉永は、その目つきの悪さもあってから、世間からは「毒蛇女」と呼ばれ、逮捕の報道では、家の軒先で記者を睨みつける写真が決まって使われた。



 まさに「国民の敵」として世間から認識された吉永であったが、警察の捜査、さらにその後の裁判がトントン拍子で進んだかといえば、全くもってそうではない。



 X毒豚汁事件の犯人を吉永と決めつける根拠が、あまりにも薄弱だったのである。


 そのほとんどは目撃証言などの状況証拠であり、客観的証拠はたった一つしかない。


 しかも、その客観的証拠に対する疑義が、吉永の弁護団からは示されていた。



 加えて、吉永本人は一貫して犯行への関与を否認していたのであるから、X毒豚汁事件は冤罪である、と主張するメディアが現れ、吉永の雪冤を支援する団体ができたのも、当然の流れであった。



 吉永は、死刑判決後、三度の再審請求をしている。


 再審請求で示された新証拠は、裁判所に、一雫、いや、それ以上の疑念を抱かせたものの、結果として、いずれの再審請求を棄却された。


 この国において、再審の扉はあまりにも重たく閉ざされているのである。



 それでも、吉永の弁護団は、四度目の再審請求に向けた準備を進めていた。



 その矢先の死刑執行であった。



 もちろん、法律上は、死刑判決が下されたのち、ただちに死刑執行をすることも可能である。


 もっとも、運用上はそうではない。



 死刑判決後、死刑囚が絞首台に送られるまでには、平均して七年から八年の猶予があり、この期間は、否認事件においてはさらに長くなるのが通例である。


 その理由の一つが、冤罪による死刑を防ぐためである。日本においては、死刑判決後、冤罪によって再審無罪となった事例が、免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件の四例ある。



 そういう事情もあり、新たな再審に向けた準備をしていた弁護団、その協力をしていた支援団体、そして、吉永本人にとって、死刑執行は遠い先のことだと考えられていた。


 絞首台送りの知らせは、まさに寝耳に水だった。



 しかし、法務大臣が死刑執行を許可するハンコを押してしまった以上、それを止める手立てはどこにもない。



 吉永の訃報ののち、吉永の弁護団と支援団体は、それぞれ死刑執行に対する抗議声明を出した。



 当時、吉永を「毒蛇女」として散々こき下ろしていた大手メディアも、こぞってその抗議声明を紹介し、吉永が死してようやく、吉永が冤罪であるとの論調での報道を始めた。



 しかし、それらは全てあとのまつりであり、吉永の死刑執行によって、全てが終わった――



――そう思われていた。



 しかし、違った。



 吉永の死刑執行は、更なる凄惨な殺人事件の開始を告げる合図に過ぎなかったのである。

大阪滞在2日目です。

慣れない土地に戸惑っています。


地下鉄「堺筋線」は、なぜアルファベット「K」で表されているのでしょうか。

いくらググっても、千日線の「S」と被らないため、とだけ説明されているだけで、なぜ「K」なのかという積極的な説明がありません。


たまたま予約したホテルが外国人御用達のホテルらしく、日本人が僕しかおらず、食堂で永遠にBBCが流れていることにも疎外感を感じています。


早く東京に帰りたいです。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いきなり名探偵が死ぬ展開、前書きでわかっていても、息を呑みました。 ましてや、殺される側の視点で描くなんて…… 一転、二部の家庭描写のリアリズムも凄い。子供の可愛さと鬱陶しさ、その両方が…
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