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社会見学

 人が集団で暮らし始めれば、そのコミュニティーには大抵『変わり者』と言われる人物が混ざる。僻地とまではいかないが、都会と呼ぶには垢抜けないその街は『カラスばあさん』が最たる存在だった。本名はソフィアだが今は誰も呼ばないし知っている住民の方が珍しい。新婚気分が抜けない時分に夫が急死してしまい、すっかり捻くれてしまった。

 それでも実害があるかと言えばそうでもなく、ただ常にブスッとした表情と態度の初老の女性であったので、あまり好かれてもいないが相当嫌われているわけでもいなかった。そんな一人暮らしの未亡人に、同居人が増えた。

 赤の他人同等の、戸籍上は遠縁の娘だという。焦げ茶色の髪を三つ編みに纏め、まあるい薄茶色の瞳をもった、十代後半らしき地味な少女。名前もアリスといって平凡すぎて適当につけたような名前。皆は私生児の娘だの家出娘だの親が犯罪を犯して夜逃げしてきただの、胡散臭く思い一定の距離から様子を伺うばかりだった。

 しかしそれも最初ばかりで、次第に住民のあちこちから、落ち葉を一緒に片付けてもらった、体調が急変した家族を医者に見せたいが乗馬経験のない家族の代わりに何なく馬車を操って送ってくれた、迷子になった子供を見つけ出して送り届けてくれた、野犬を追い払ってくれたという声が上がり始めると、徐々に新参者は受け入れられていった。

 栄えているが治安の悪い都会の板挟み状態になっている街には、時折そこからあぶれた破落戸の毒牙に掛かる事があり、今まで何度も犯罪に巻き込まれ痛い目を見ては泣き寝入りをしてきた。

 だがしかし、不思議と少女がカラスばあさんと家に引っ越して来てからというもの、街は平穏を取り戻し、以前のように恐怖と不安に押し潰される一時を過ごす事はめっきりと減った。カラスばあさんの通報により駆け付けた所轄の警吏が、首を傾げながら街の片隅でロープでぐるぐる巻きにされた悪漢を護送用のトラックへ詰め込んでいるのを見掛けるくらいだ。

 そういう時に住民達はいつも「もしや」と思いアリスを見るが、彼女は街の子供の子守りをしたり、一緒に遊んでは容赦なく負かされていたり、年寄の長話をウンウン聞き、どこからどう見ても悪漢どもに立ち向かったとは思えない毎日を送っている。なので住民達も「こんなお嬢ちゃんがまさかね」とちらりと向けた視線を外し、以前よりも平和で、幸福な日常に身を委ねていった。


「……もう少し治安の落ち着いた場所の方が良かったのでは?」

「人間の猥雑さもある程度把握してもらわねばな」

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