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適応【婚約前】

 初めて魔王の、あの赤い瞳と目が合った時、シュテルン(当時は自分の名前も思い出せず、名無し同然だったが)はこれは無礼に当たるのではないかと恐怖した覚えがある。その場に居たシュテルン以外は皆、頭を下げていたからそれはもう心臓が痛いくらいに動いて、殺される恐怖で頭は支配された。けど慌てて頭を下ろしたシュテルンに近づき顎を掴んだ王の口から放たれたのは死刑宣告ではなく自分への求愛で、それはシュテルンにとって二度目の衝撃の展開だった。

 王はまだ正妻や側室、公妾も居ないとはいえ、庶民かつ異世界人である自分が加えられたのは宮殿に連れてかれてあっという間の出来事だった。反対されるに決まっていると思っていたが、あっさりとその案は通ったので驚いたのは記憶に新しい。王の決めた事に逆らうと酷い目に遭うから、反対出来なかったのだと後で知らされたけれど。その頃にはシュテルンは城内を一人で歩いても問題視されない扱いになっていたので、心苦しい思いはあまりしなかった。


「魔王様は、シュテルン様が来られてから寛容になられました」


 嬉しそうにシュテルンに付けられた侍女が教えてくれた。以前は気に入らない事があると遠慮もなく殺していたのにそれが無くなったのだという。その時は物騒なジェネレーションギャップを見せつけられ王に対しての恐怖心が増したものの、シュテルンは単純な性格だった。それから少しの間余所余所しくなったシュテルンに王は、叱られた子供のような顔をしながら墓を作ったと言い出したのだ。誰の者かと、問う事はしなかった。


「愚行であったと、反省している。もうあのような事は二度としない」


 話に聞いていた過去の王を許すも何も、そんな権利はシュテルンにはない。自分に今あるのは過去の王ではなく目の前にいる王だ。うつむいた王に触れたシュテルンの手に自分の手を重ねた彼は、ようやっと安堵したように笑っていた。


 ――まるでつい先日起こった事のように覚えている王との日々は、数えると半年以上経っている。未だにシュテルンは元の世界に帰れていない。けれど幸せだった。


「今日は随分と機嫌が良さそうだな」


 聞き慣れた声に振り返ると、やはりそこには魔王がいた。自然と笑顔が浮かび、天気がいいからだと告げれば、ふうと溜め息を吐かれた。


「未だに理解できない。他の者は価値ある物をやれば笑顔を見せるというのに、お前はそうでない。だというのに、天気が良いだけでそのように笑む」


 そう言うと王はつかつかとシュテルンに歩み寄り、視線を反らせながらシュテルンに一輪の花を差し出した。驚いて見上げると、彼の頬や耳が微かに赤くなっている事に気付いた。


「このような物でも、嬉しいと思うのなら笑え。空にではなく俺に向かってだ」


 反らしていた目をシュテルンに注いで、王は自分の反応を待つ。こんな優しい王を、侍女や兵士、側近達は見た事があるのか。花の茎を握る大きな手をそっと両手で包むと、一瞬彼の体が揺れる。シュテルンは迷わず、王に向かって自分が出来る最大限の笑顔を捧げた。ほうと息を吐いて、彼は微笑(わら)った。


「星の子。お前によく似合っている」


 出来る事なら、この幸せが一生続けばいいと思った。

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