ACT.7 望まぬ才能(Ⅱ)
▽▲▽
「それじゃあ、今週の勉強会をはじめるよ」
「はーい!」
「――うん」
そして、しばらく後に俺たちはシャルルの部屋でいつも通り勉強会を始めることにした。
――全員息が少し乱れていて、服装も乱れているのも、いつも通り。
「じゃあ、僕が学校で教えてもらったことは――」
この勉強会の趣旨は、シャルルが学校で学んだことを俺とエヴァに教えるというものだ。
処刑人の家系である俺は兎も角、実はこの国では女性も学校に行くことができない。
その為、普段はシャルルは学校で、俺とエヴァは家庭教師の元で勉強をしている。
だから週に一回こうして三人で集まって、お互いの勉強を見たり教えあったりする勉強会をやっていた。
「そもそもさ、なんでエヴァはべん勉強しているんだ?」
「ん、なんかダメなの?」
ふと気になって、エヴァにそう尋ねる。
この国では、貴族子女であれば学問を嗜んでいる必要性はない。
必要なのは、勉学ではなくマナーや気品だからだ。
「むふっ、遅れているねぇエドワード君は」
そうしたら、何故か絶妙にムカつく顔をされた。
「勉強っていうのは、役に立つんだよ。 知らないの?」
「知ってるわ!」
まぁ、結局のところは彼女の両親であるナミュール伯の意向というところが大きい。
ナミュール伯は、かなりやり手で先見性のある人であることは、まだ数回しか会っていない俺でもわかっていた。
実際、ルテル家とジュワユーズ家の契約に関してもあの人が一枚噛んでいるからこそ、円滑に回っていると言えた。
「できる環境にいるなら、やっておいた方がいいと僕は思うな。 もらえるモノはもらっておいた方がいいように」
「医者の息子にしては、シャルルは貧乏性だよね」
「うぐっ」
エヴァの何気ない一言がシャルルを傷つけた。
まぁ実際のところ、経済的には火の車らしいルテル家で育った為に少々倹約家な面がシャルルにはあった。
「そんなこといったら、エドなんて」
「い、いや俺は――」
そう言ったところで、べきっと俺の手の中で何かが砕ける音がした。
恐る恐る右手を見ると、そこには折れて砕けたペンがあった。
「や、やっちゃった」
そう額に冷や汗を書いて二人を見ると、二人は小さくため息を吐く。
その顔には、諦観が浮かんでいた。
俺が勉強中に、ペンをはじめとした道具を壊す。
ここ最近、よく見る光景であった。
「こういうの、安くはないんだから、気を付けないとダメだよ」
「は、はははっ」
シャルルの言った小言に、俺は笑ってごまかす。
実は、まだ二人には言えていないことが俺にはあった。
――それは、力が強すぎること。
同年代のシャルルと比べても異常なほどに。
最近は加減をしなければ、食器等も容易に壊してしまいそうになるほどであった。
このことが、俺の悩みの一つとして最近の不安の種になっていた。