ACT.5 死神の子(Ⅴ)
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「ご、ごめんなさい」
エヴァに連れられて庭を出ると、すぐにルテル氏やシャルルを見つけることができた。
彼らは、泣きながら出ていった俺を探し回っていてくれた様だった。
ルテル氏は、申し訳なさそうな顔をして、俺に謝罪した。
「ごめん、エドワード君。 私もデリカシーに欠けていた。 少しショッキングな内容だったね」
「はい」
「ごめん。 でも、これは両家にとって大事な話なんだ。 君が家督を継ぐまでまだ時間があるから、それまでに、ゆっくりでいいから理解を示してくれると助かる」
「――はい」
そして、俺はエヴァと別れてシャルルと共に祖父たちの元に戻る。
その道すがら、シャルルと話をした。
「シャルルは、その、このことを」
「――うん、ちょっと前に父から聞いてた。 だから、エドの気持ちもちょっとわかる」
困ったように笑いながら、彼はそう答えた。
そんなシャルルに、俺も黙ってうなずいた。
彼は、黙って手を強く握ったら、同じくらい強く握り返してくれた。
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「坊ちゃま、今日はなにかありましたか?」
「んぇ?」
その日の夜のことだ。
夕食後、今日の日中にできなかった分の勉強を自室で行っていると、温かい紅茶を持って一人の使用人が入ってきた。
黒い制服に身を包んだ、くすんだ黒髪にソバカス顔の若い女性だ。
彼女の名前は、メアリ。
三年くらい前からこの屋敷に仕えていて、俺に対してよく世話を焼いてくれる人だ。
そんな彼女は、紅茶を机の端に置くなり俺にそんなことを言った。
「なーんか、心なしか気持ち明るめというか、良いことあったっぽいっていうか」
右手で髪をくるくるといじりながら、机の端に腰かけてニヤニヤと笑う。
――普通の貴族の家で、使用人がこんな態度をしていれば大問題になっているところだが、この家は違う。
このジュワユーズ家は貴族並の暮らしをしているが、実態はお金がある差別階級。
ここで雇われているのは、みんな訳アリなのだ。
代わりはそうそういないし、彼女たちの行く当てもそうそうない。
まぁ、そもそもな話。
親し気に接してくれる彼女のことを、俺は嫌っていないというのが一番の理由ではあるのだけけれど。
「ちょっとね、色んなことがあったんだ」
そういって今日のことを振り返る。
初めてルテル家に出向き、少しショックなことも知った。
けれど、それ以上に俺にとって良かったと思えたのは。
「初めて、友達ができたかもしれない」
そう口にすると、自然と口元が綻んだ。
メアリはそんな俺の顔を覗き込んで、彼女もまた笑顔を見せた。
「そっか、よかったじゃん」
「――うん」
俺の感じていた”痛み”をわかってくれたシャルルと、寄り添ってくれたエヴァ。
今日この日、死神の子にはじめて友達ができた。