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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第一章 三人の子供たち
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ACT.5 死神の子(Ⅴ)

                                                         

 ▽▲▽


「ご、ごめんなさい」


 エヴァに連れられて庭を出ると、すぐにルテル氏やシャルルを見つけることができた。

 彼らは、泣きながら出ていった俺を探し回っていてくれた様だった。

 ルテル氏は、申し訳なさそうな顔をして、俺に謝罪した。


「ごめん、エドワード君。 私もデリカシーに欠けていた。 少しショッキングな内容だったね」


「はい」


「ごめん。 でも、これは両家にとって大事な話なんだ。 君が家督を継ぐまでまだ時間があるから、それまでに、ゆっくりでいいから理解を示してくれると助かる」


「――はい」


 そして、俺はエヴァと別れてシャルルと共に祖父たちの元に戻る。

 その道すがら、シャルルと話をした。


「シャルルは、その、このことを」


「――うん、ちょっと前に父から聞いてた。 だから、エドの気持ちもちょっとわかる」


 困ったように笑いながら、彼はそう答えた。

 そんなシャルルに、俺も黙ってうなずいた。

 彼は、黙って手を強く握ったら、同じくらい強く握り返してくれた。


 ▽▲▽


「坊ちゃま、今日はなにかありましたか?」


「んぇ?」


 その日の夜のことだ。

 夕食後、今日の日中にできなかった分の勉強を自室で行っていると、温かい紅茶を持って一人の使用人が入ってきた。

 黒い制服に身を包んだ、くすんだ黒髪にソバカス顔の若い女性だ。

 彼女の名前は、メアリ。

 三年くらい前からこの屋敷に仕えていて、俺に対してよく世話を焼いてくれる人だ。

 そんな彼女は、紅茶を机の端に置くなり俺にそんなことを言った。


「なーんか、心なしか気持ち明るめというか、良いことあったっぽいっていうか」


 右手で髪をくるくるといじりながら、机の端に腰かけてニヤニヤと笑う。

 ――普通の貴族の家で、使用人がこんな態度をしていれば大問題になっているところだが、この家は違う。

 このジュワユーズ家は貴族並の暮らしをしているが、実態はお金がある差別階級。

 ここで雇われているのは、みんな()()()なのだ。

 代わりはそうそういないし、彼女たちの行く当てもそうそうない。

 まぁ、そもそもな話。

 親し気に接してくれる彼女のことを、俺は嫌っていないというのが一番の理由ではあるのだけけれど。


「ちょっとね、色んなことがあったんだ」


 そういって今日のことを振り返る。

 初めてルテル家に出向き、少しショックなことも知った。

 けれど、それ以上に俺にとって良かったと思えたのは。


「初めて、友達ができたかもしれない」


 そう口にすると、自然と口元が綻んだ。

 メアリはそんな俺の顔を覗き込んで、彼女もまた笑顔を見せた。


「そっか、よかったじゃん」


「――うん」


 俺の感じていた”痛み”をわかってくれたシャルルと、寄り添ってくれたエヴァ。

 今日この日、死神の子にはじめて友達ができた。

                                                    

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