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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第三章 人々の聖剣
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ACT.52 ヴィクトー・ジュワユーズ(Ⅱ)

「母さん、と」


「あぁ、お前の母は、成人する前にこの家を出たから、終ぞ機会は訪れなかったがな。――本当なら、あの子だけでなく、あの子の選んだ夫とも呑み交わしてみたかった」


 グラスを(くゆ)らせ、祖父は呟く。

 それを見つめる瞳に写っているのは、過去の光景なのかもしれない。


「儂は、悔やんでいる。悩んでいる――否、悩み続けている」


「何を、ですか」


()()だ」


 酒を少し口に含んでゆっくりと嚥下した祖父は、静かに語り始める。


「儂にとって、親から引き継いだこの処刑人という役目は、誇りであった。何より尊く、そして()()()()()が当たり前であった。――だからだろう、儂はあの子を殺してしまった」


「いや、おじいさまが殺したわけじゃ――」


「儂が殺した。見殺しにしたようなモノだ」


 ぎゅっと、握るグラスに力が入る。

 それと同時に小さな波紋が琥珀色の湖面を揺らす。


「どうしてあの時、一番辛い時にあの子を助けられなかったのか。儂があの子を、マルグリットを苦しめて、すべてを歪めてしまった」


 眉間に皺を寄せて、強く目を瞑る。

 それはまるで、目蓋の裏にある光景に心を痛めているようだった。


「そして、残されたのは幼い孫。だからこそ、儂はこの子だけは、護らなければならないと誓った。以前から懇意にしてたルテル家から、例の契約を持ちかけられたのはその頃だ。当時の当主は、学会から鼻つまみ者にされていてな、独自の医学を学ぶ必要があったのだ。その新たな技術を開発する機会に、ナミュール家も協力を申し出た」


 そうか、そうだったのか。

 初めて耳にする話だった。

 こうして、三つの家は繋がりを得たのか。


「以前の儂ならば、処刑人の教示や誇りに傷をつけかねないその契約は蹴り飛ばしただろう。――だが、それによって得られるであろう知識と技術、それは長い時間を経て孫を救えるかもしれないと思った。風評という悲劇から」


「解剖試験の導入は、俺の為に――?」


「あぁ、嗤え。儂は、罪人を救う為ではなく、私欲の為にこんなことを始めたのだ」


 自身の過去を振り返り、乾いた笑い声を上げる祖父。

 その姿は、まるで自分自身をナイフで傷つけているような痛々しさがあった。


「そして、もう一つ。儂は大きな間違いを犯した」


「――それは、何ですか?」








「エドワード。お前を()()()()()()()()だ」

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