表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第三章 人々の聖剣
51/112

ACT.49 明日を変える為に(Ⅳ)

「坊っちゃま、今から私とここで買い物をして下さい。――そうすれば、如何に自分が何も知らなかったかを知ることができるでしょう」


 そう言うや否や、彼女は何の躊躇いも無しに雑踏の中へ踏み込んだ。

 俺はそれを見て、慌てて彼女を追いかける。

 早歩きでスイスイと人を避けて歩く彼女とは違い、俺はあちこちで人にぶつかりそうになり、思うように早く歩けない。

 考えてみれば、当たり前だ。

 今まで、こんな人混みを歩いたことなんてない。

 メアリの様に上手く進めない筈である。

 それでも彼女を見失わないように、必死に掻き分けていく。

 目線の先で、彼女がふと足を止める。

 これはチャンスだと思い、その隙に距離を詰めようと急ぐ。

 ――だが。


「すみません、こちらを下さいませんか」


 メアリが立ち止まったのは、俺を待つ為じゃない。

 彼女は目の前の青果を扱う露店、その店主へ話しかけていた。

 中年男性の店主は裏の方を向いて作業していたが、それを中断し、メアリの方を向き直ると、少し訝しげな表情を作る。

 そこで更に、俺は気がついた。

 メアリの格好は、ジュワユーズ家に仕える使用人の制服のままであった。

 一般的な通行人の格好では無い。 

 普段、私服の彼女を見ることなど少なく、いつもの見慣れた格好であったから、気がつくのが遅くなった。


「――アンタ、もしかして近所の屋敷の人か?」


 店主は、そんな言葉を口にする。

 近所の屋敷とは、十中八九ジュワユーズ邸のことだ。

 それを聞いて、冷や汗が出る。


「はい、ジュワユーズ家に仕えています」


 あろうことか、メアリは正直にそう答える。

 その瞬間、店主は視線を手元に落とし、何かを掴むような素振りを見せる。

 嫌な想像が、脳裏を過ぎる。

 メアリはあの男に何かされるのでは無いだろうか。

 そんな予感が、俺を急かす。


「メアリ!!」


 そして、ようやく追いついた俺は、勢いよく彼女の袖を引っ張り、男から庇うように前に出る。


 次の瞬間――。


「アンタ、これも持っていけ――って、なんだ?」


 赤い果実を手にそれを差し出している店主の姿が前にあった。

 その姿に、俺だけでなく店主もポカンとした表情を作る。


「え、えぇ?」


「全く、使用人を庇う主人がどこにいますか」


 直ぐ後ろで呆れたような声がする。

 メアリはそう言いながら、広げた俺の腕を掴んで下げ、一歩前に進む。


「主人が失礼を働いて申し訳ありません」


 メアリは深々と頭を下げる。

 それを見た店主は驚いて声を上げる。


「それはいいが、まさかこの人ジュワユーズの処刑人か!」


 その言葉に俺は思わず身を固くする。

 次に来る罵倒を想像して。

 しかし、次に彼の口から出たのは、予想外の台詞だった。


「――()()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ