ACT.4 死神の子(Ⅳ)
「――エヴァ?」
「うん、エヴァだよー」
にこにことした笑顔を浮かべたその少女は、俺の隣にしゃがみ込む。
邪気のかけらのなく笑う彼女は、可愛らしいその服が汚れることになんて頓着せず茂みの中で俺に話しかける。
「さっきはいっしょに遊んでたのに、ふたりともいなくなっちゃうんだもん。 タイクツだったぁ! ――むう」
「ぐっ、ぐずっ」
そういって可愛らしく唇を尖らせるエヴァのその表情に、不思議と涙が溢れてきた。
悲しくて涙が溢れた訳じゃない。
彼女が傍にいてくれることに、俺は少し安心したのだ。
エヴァは、そんな俺を見て突然ぎゅっと抱きしめてきた。
「え、エヴァ!?」
少女の突然の行動に、俺は動揺する。
ありていに言えば、少しどぎまぎした。
そんな俺とは対照的に、彼女は落ち着いた優し気な声で囁く。
「エヴァが泣いたり、しょんぼりしてるときにおかあさまはいっつもこうしてくれるの。 だからエヴァもこうして、エドに元気をあげるの」
エヴァの優しさに、心が温まるような思いだった。
だが、心の隙間に一抹の黒い影が差す。
俺は、エヴァの優しさに触れていいほど、いい人間なのだろうか。
死神の子は、悪い奴なのではないのか。
「ご、ごめんなさい。 俺はエヴァにぎゅってしてもらえるほど、いい子じゃない。 俺は、悪い奴だから」
「なにか、わるいことしたの?」
「お、俺じゃなくて俺の家が――」
こうして、俺は話し始めた。
俺の家が、ジュワユーズ家が処刑人を生業にしていることを。
そして、死んだ人をも辱めていることを。
「こんな、こんなわるいことをしている。 だから俺は」
「――それは、わるいことなの?」
全てを聞いたエヴァは、そういって小首を傾げる。
その予想外のリアクションに、一瞬俺はぽかんとした。
「だって、わるいひとがずっといたら、ずっとわるいことばっかり起こるでしょ? だからそういうひとたちに『めっ!』ってするひとは必要だとおもうの」
少し困ったように眉を寄せ、彼女はそう言った。
その言葉に、俺はちょっと困惑する。
てっきり、このことを知ったら嫌われると思っていた。
――たとえ嫌われても、この少女にウソなんて吐きたくなかった。
しかし、返ってきたのは窘めるような、そんな言葉だった。
「だいじょうぶだよ、エドのおじいちゃんも、シャルルのパパもわるいひとじゃないよ。 だってエドもシャルルもいい子だもん!」
エヴァは、当たり前のことのように言う。
――エドは、おじいちゃんが悪い人だって思うのか、と。
その問いに、俺は首を振った。
祖父は、厳しく怖かった。
だが、決して悪人ではなかった、心無い人ではなかった。
あの時、投げられた石から庇ってくれたのを知っているから。
「ちがう、ちがうよ」
「そうだよね! ――じゃあ、なかなおりしにいこ? だいじょうぶ、エヴァだっていっしょにいくから!」
エヴァは励ましの言葉と共に手を握り、そして俺を引っ張る。
その手に導かれ、俺は茂みを中を飛び出す。
薄暗い中から飛び出した為に、突然降りかかる午後の日差しに思わず目を細める。
「ごめんなさいは、早いほうがいいよ!」
「え、ちょっと、まって!」
手を引いたまま勢いよく駆け出すエヴァにつられて、俺はつんのめりながら駆け出す。
――その時、銀髪の可愛らしいその少女に、俺は確かに少し救われた。