ACT.42 処刑人と王子(Ⅰ)
「――君は、自身の家の成り立ちを知っているか」
王子のその言葉に、俺は静かに首を横に振る。
ジュワユーズ家の成り立ちについて、俺は無知だった。
そもそも、王族の口から語られるほど大層な起源があるという方が驚きだ。
ジュワユーズ家は確かに古いが、言ってしまえば古いだけという認識であった。
だが、王族との関わりというところでは、一つ知っている事がある。
「確か、家名は国王から下賜されたものだと聞いています」
「そう、祖王が盟友である初代ジュワユーズに、自身が持つ聖剣の名を与えたそうだ」
その言葉に、俺は少し驚く。
祖王ジークと聖剣ジュワユーズ。
この国の子供達なら、誰もが知っているルーレンス建国物語。
そんな御伽話の時代まで、遡れるのか。
いや、そもそもそれは事実なのか?
「ちなみに、この件は王家の歴史書にも記されてる事実だし、聖剣も現存している」
「聖剣があるんですか?」
「まぁ、実際はただの儀礼剣で、物語の中みたいな特別な力はないけどな」
そう言って笑う王子の言葉に、俺はがっかりして肩を落とす。
俺の様子を見て、ふっと王子は吹き出す。
「悪いな、夢を壊して」
全くだ。
「話を戻すと、古き時代に初代ジュワユーズは祖王の家臣であった。そして建国の際に、なぜか自身は敢えて王家を離れ、法の正しさを示し畏れられる処刑人になったとされている」
「――でしょうね」
その話を聞いて、不思議と俺は「何故?」という疑問を感じなかった。
むしろ、ストンと府に落ちる感覚があった。
おそらく、自分が初代でも同じことをしそうだと思ったのだ。
俺のその反応に、王子は片眉を上げて怪訝そうな顔をする。
「それは何故だ?」
「――その時、多分祖王に使える仲間が他にいたんでしょう。そして、誰かが名誉を捨てて、誰もがやりたがらない、しかし重要な役目を担う必要があった」
国を作り、法を敷いた。
そして法に背いた者を罰する者も、権力を持つ王族貴族だと、国民からの心証は悪い。
故に、王族からも貴族からも、そして民からも離れた場所にその役目を置く必要があった。
それが、初代の処刑人、刑罰の執行者。
祖王は、その役目に重大な意味を見ていたんだろう。
だから、仲間の誰かに託そうとした。
「それなら、自分がやるでしょう。――大切な仲間に、孤独と苦悩を押し付けたくなかったから」
だから、自分から行ったんだ。
大切な人の苦しむ姿を見たくないから。
敬愛する祖王の為に、使命を受けた。
その覚悟への対価として、祖王は、聖剣の名を与えたのだろう。
――それだけ、大切なのだという気持ちを込めて。
「――」
俺の回答に、王子は無言だ。
そして、しばらくの沈黙の後に、深く頷いた。
「成る程な。――君が、次代のジュワユーズで、良かった」




