ACT.41 太陽からの招待状(Ⅲ)
突然の登場に、俺は一瞬作法を忘れて立ち尽くす。
そしてすぐに、今自分が無礼を働いていることに気がつき、急ぎ平伏しようと頭と腰を下げようとする。
しかし、俺の行為を王子は片手を挙げて止める。
「あぁ、要らん。ここには私と君しか居ないから、堅苦しいのはよしてくれ」
気さくな笑みと共にそう言った王子は、そのままの仕草で席に着くように促す。
俺は内心恐る恐るといった感じで、テーブルセットに近づき椅子の横に立つ。
王子も同時にテーブルセットの反対側へ進み、先に座ったのを見てから、俺も腰を下ろす。
「今年の茶葉は、例年より良質らしい。少し待て」
そう言うと、ティーポットにあらかじめ入れてあったであろう紅茶を、王子は自分から俺の分まで注ぎ始めた。
俺は慌てて立ち上がろうとするが、ガタッと椅子を鳴らした瞬間、ジロリと睨まれる。
その視線は、「黙って座っていろ」と言っているようだった。
なまじ迫力がある外見であることもあり、俺は気圧されるように再度着席する。
「さぁ、この私が直々に用意した茶だ」
そう言って差し出されたカップの中には、鮮やかな赤色が温かな湯気の中で揺れていた。
「い、いただきます」
「応」
一言そう言って、俺は紅茶を口に含んだ。
――美味い。
深みがあって、鮮烈で、味がしっかりしている。
普段自分が飲んでいる物とは、比べるのもおこがましいと思う程に、その紅茶は、美味であった。
「――いい表情だ。美味いと顔に書いてある」
王子は、満足げな笑みを浮かべながら、自身もその紅茶を飲む。
すると、何故か王子は少し顔をしかめる。
「まだ、熱いな」
俺としては、そうでもなかったが、どうやら彼は熱い飲み物が苦手らしい。
猫舌というヤツだろうか。
獅子を彷彿とさせる精悍な青年のそんな仕草に、少し面白味を感じてしまい、俺の頬も少し緩む。
それを見て、また王子も笑う。
「ようやく緊張がほぐれたか」
「はい、おかげさまで」
ここでふと、俺自身がまだ名乗っていないことに気がつき、改めて名乗ることにした。
「ご挨拶が遅れました、私は、ジュワユーズ家次期当主のエドワードです」
挨拶と同時に軽く礼をすると、彼は頷きながらこう返した。
「あぁ、噂は聞いている。あのジュワユーズ家の次代だな」
そう言って、彼はまた紅茶を口に含み直し、舌を湿らせる。
「話がしたかった。――遥かな過去より、歴史的な関わりがあるルーレンスの次代と、ジュワユーズの次代として」
「――君は、自身の家の成り立ちを知っているか」




