ACT.39 太陽からの招待状(Ⅰ)
寒々しい秋風が、リゲルの街を吹き抜ける。
夕暮れの街を歩く就労者たちは、コートの襟を高くして皆帰路に就く。
冬の到来を予期させる秋日の街を、俺は走る馬車の中で彼らを眺めていた。
司法省での仕事を終えての帰り道で彼らを眺めながら思いを馳せるのは、あの日からのことだ。
初めて手をかけたあの日から三年、変わってしまったことが多くあった。
あの日から、俺は年に数件の死刑執行を担うことになった。
二桁に届く数の罪人を送り出してなお、命を断つ剣は未だ重く心をさいなみ続ける。
寝付けない夜が増え、自然と目の下には濃い隈が付いて消えなくなった。
そして、祖父が体調を崩し処刑人の仕事を引退した。
引退しても以前は領地運営などは積極的に行っていたものの、最近は起き上がることもままならない日が増えてきた。
そして、この度正式にジュワユーズ家を俺が継ぐことが決定した。
後日、祖父の体調を見て引き継ぎを行う予定だ。
そして、何よりも。
「――エヴァ」
あの旧ジュワユーズ領への旅以来、彼女とは会えていない。
▽▲▽
ジュワユーズの屋敷に帰ると、使用人のソフィが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、エドワード様!」
彼女もこの屋敷に勤めて十年くらい経つ。
立ち振る舞いも、堂に入ったモノになってきた気がする。
「あぁ、ただいま。おじい様の様子はどうだった?」
「はい、旦那様は今日は割と体調が良くて、ご飯もいつもより多く召し上がっていました」
その言葉に、俺はほっと胸をなでおろす。
最近の体調悪化はちょっと心配なくらいだったから。
ソフィの言葉を聞いて一安心した俺は、そのまま自室に向かう。
「――さて、ちょっと疲れたな」
自室にて、コートを脱いでタイを緩めたところで、ドアがノックされる。
どうぞと声をかけて入室を促すと、「失礼します」といって入ってきたのはメアリだった。
何故かいつにもまして神妙な顔をして入ってきた彼女に、俺は少し違和感を感じる。
「坊ちゃま、その――」
何かを言い淀む彼女。
「どうかしたの?」
そう問うと、彼女はそっと一枚の封書――手紙を差し出す。
「これについては、まだ旦那様に伝えていません。 たまたま受け取った私以外の使用人も知りません。 これは、中身を至急確認した方がよろしいモノです」
そう告げる彼女の様子は、この手紙がただ事ではないことを示していた。
誰からのモノだろうと裏を捲る。
そして、封蝋に記されていた紋章を見て、俺は思わず目を見開いた。
――色違いの双竜と太陽を表す紋章。
それは紛れもなく、神聖ルーレンス王国の王家を表すモノだった。




