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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第一章 三人の子供たち
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ACT.3 死神の子(Ⅲ)

                           

 ▽▲▽

                                    

 ――以前、一度だけ祖父や使用人に黙って、街に遊びに行った事があった。

 処刑人の家系であるジュワユーズ家には、教育を受ける権利が無い。

 より正確に言うのなら、学校に行く事を禁じられている。

 その詳しい理由を、俺は知らない。

 ()()()()()()だと、教えられて生きてきた。

 疑問を感じた事があったが、それを口にできる環境では無かった。

 その為に、今までの俺は屋敷の外を知らずにいた。

 知らないうちは、そのままでも良かった。

 ――だけれど、あの時。

 初めて外に出た、あの凍てついた日。

 そう、初めて祖父の仕事を目にした、あの日だ。

 あの日、初めて“外”を知った。

 だからこそ、外を知りたくなってしまった。


 使用人の眼を盗んで、屋敷を抜け出すのは、簡単だった。

 そして、街に紛れ込んでしばらく当てもなく彷徨った。

 ある路地に迷い込んだ俺は、そこで数人の少年たちと出会い、一緒に遊んだ。

 同じ歳の子と遊ぶのは初めてで、とても楽しかったのを今でも覚えている。

                           

 そして、屋敷を抜け出してから3時間ほど経った頃だろうか。

                         

 遊んでいた路地の外に、一台の馬車が外付けされた。

 ジュワユーズ家の家紋が記されたその黒い馬車から、祖父が降りてきた。

 それを見て、俺だけでなくみんなも動きが止まる。


「お、おじいさま」


「気は、済んだか」


 祖父の顔には、不思議と怒りの感情は浮かんでいなかった。

 俺は、ちらりとみんなを見た。


 ーーそして、後悔した。


 先程まで、お互い笑顔で遊んでいたのに。

 その顔に浮かんでいたのは、畏れと怒りだった。


「死神」


 ひとりが、ぼそりと呟く。

                                 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

                           

 俺が小さく悲鳴をあげるのと、彼が拾った石を祖父に投げつけるのは、同時だった。


「親父が! 親父が何したっていうんだよ! ただ、風邪引いたオレに! なんか、なんかちゃんとしたものを食べさせたくて、でも金なんてなくて、それで、それでぇぇぇええええ!!」


 彼は、泣きながら祖父に石をぶつけ続ける。

 それを祖父は、上等なコートに泥が付くにも関わらず、黙って受け続けている。

 恐れていた祖父のその姿に、俺は何も出来なかった。

 やめてくれと叫ぶ事すら、出来なかった。


「ーーや、やめ」


 ようやくその言葉を絞り出したとき、彼の眼が俺を向く。


「このっ!」


 そうやって、彼は石を俺にむかって振りかぶる。

 俺は思わずギュッと眼を閉じる。

 ーーだが、その石が俺に当たることは無かった。

 祖父が、俺の前に立って庇ったのだ。


「お、おじいさま?」


「帰るぞ」


 そう言って、祖父はコートの端で俺庇いながら、馬車の中へ送る。

 彼は、ほかの子たちにやめろと嗜められ、ようやく石を投げるのをやめて、その場に泣き崩れる。

 馬車に乗ったあと、その窓から彼らを見た。

 そこにいたのは、もう一緒に遊んだ“みんな”ではなかった。


 彼らが俺を見る眼は、ヒトを見る眼では無くなっていた。


 屋敷に帰ったあとも、使用人に酷く心配はされ叱られはしたが、祖父からの叱責はなかった。

 俺はそれ以外、屋敷を抜け出そうだなんて考えていない。

                     

 ▽▲▽

                    

 ルテル家の屋敷の庭。

 その茂みの中に、三角座りで身を潜め俺は泣いていた。

 薄々わかっていた事だった。

 俺は、俺たちは、()()()()なんだって。

 恨まれるような、そんな存在なんだって。

 そんな眼を背けたくなるような事実が、今日とうとうやってきてしまったのだ。


「ぐっ、俺は、俺はっ」


 溢れる涙を袖で拭っていたその時、がさりという音が近くでした。

 誰か来ると、そう思った俺は身を固くする。

 そこにやってきたのはーー。


「あれ、エド君? どおしてこんなとこに、いるの?」


 やってきたのは、さっきまで一緒に遊んでいた少女、エヴァだった。

                                                  

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