ACT.35 ”我は科人の永久の安寧を祈らん”(Ⅲ)
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「――あ、エドワード様、お帰りなさいませ!」
屋敷に帰ってくると、エントランス周りの清掃をしていたソフィが出迎えてくれた。
――俺が正式に処刑人となることが決まり、それと同時期にソフィのこの屋敷での任期も終わった。
先日、どうするかということを本人に確認したところ、彼女は結局この屋敷に残ることになった。
彼女曰く――。
「まだ、このお屋敷を出てまでやりたいことはないので、それまではご厄介にならせていただいてもよろしいでしょうか?」
――と、いうことだったので、俺としても拒否する理由はなかったので、しばらく現状維持で働いてもらっている。
俺の姿を見て箒を持ったままトテトテと駆けてくる彼女は、途中で俺が抱えている荷物に気が付く。
「エドワード様、そのお荷物は?」
「司法省でもらってきた」
俺が小脇に抱えているのは、黒い布で覆われた細長くそれなりに大きい荷物だ。
それを見たソフィは、預かろうと手を伸ばすが、俺はそれを片手を上げて静止する。
「待った。これ重いし、大事なものだから俺が部屋まで運ぶから大丈夫。ソフィは仕事の続きをしてて」
「そ、そうですか?」
俺の言葉に、少し釈然としない感じではあったが、それでも「わかりました」とそのまま業務へと戻る。
そのまま彼女の横を素通りして、階段をあがる。
階段を登り切ったところで、角から人影が現れる。
「――帰ったか」
そこから現れたのは、祖父であった。
「ただいま帰りました」
俺がそう言って頭を下げると、祖父は無言で横を通り過ぎる。
そして、俺の後ろで立ち止まった祖父は、振り返らすにこう言った。
「あまり深入りするな。それは、後で辛くなるだけの行為だ」
――祖父からの、忠告。
それは偉大な先人からの、無意味な傷を減らすための言葉だった。
けれども、俺はその忠告を無視する。
「それでも、俺は自分なりのやり方を模索しながらやっていきます」
今のままのやり方では、何も変わらない。
どうすれば、変わるのかはわからないけど、自分で考えた最善をやっていこうと決めたんだ。
命を奪う責任から逃げないこと、彼らのことをしっかり知ること。
まずは、そこから始めようと思ったのだ。
俺も祖父の方を振り向かずにそう言ってその場を去る。
そして自室に入ると、ふぅと一息吐いた。
「なんか、おじい様にあそこまで逆らったのって初めてな気がする」
そして俺は持ってきた荷物を静かに壁に立てかけると、執務室の椅子を引っ張りだして座り、机の上にノートを広げる。
ノートに書き記し、纏めるのは先ほどまで聞いてきたアクセル・マフタンのことだ。
彼の罪を、司法省はこう判決したのだ。
――復讐殺人による殺人罪だと。




