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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第二章 彼を待つ剣
37/112

ACT.35 ”我は科人の永久の安寧を祈らん”(Ⅲ)

                                       

 ▽▲▽                               

                                     

「――あ、エドワード様、お帰りなさいませ!」


 屋敷に帰ってくると、エントランス周りの清掃をしていたソフィが出迎えてくれた。

 

 ――俺が正式に処刑人となることが決まり、それと同時期にソフィのこの屋敷での任期も終わった。

 先日、どうするかということを本人に確認したところ、彼女は結局この屋敷に残ることになった。

 彼女曰く――。     


「まだ、このお屋敷を出てまでやりたいことはないので、それまではご厄介にならせていただいてもよろしいでしょうか?」


 ――と、いうことだったので、俺としても拒否する理由はなかったので、しばらく現状維持で働いてもらっている。


 俺の姿を見て箒を持ったままトテトテと駆けてくる彼女は、途中で俺が抱えている荷物に気が付く。


「エドワード様、そのお荷物は?」


「司法省でもらってきた」


 俺が小脇に抱えているのは、黒い布で覆われた細長くそれなりに大きい荷物だ。

 それを見たソフィは、預かろうと手を伸ばすが、俺はそれを片手を上げて静止する。


「待った。これ重いし、大事なものだから俺が部屋まで運ぶから大丈夫。ソフィは仕事の続きをしてて」


「そ、そうですか?」


 俺の言葉に、少し釈然としない感じではあったが、それでも「わかりました」とそのまま業務へと戻る。

 そのまま彼女の横を素通りして、階段をあがる。

 階段を登り切ったところで、角から人影が現れる。


「――帰ったか」


 そこから現れたのは、祖父であった。


「ただいま帰りました」


 俺がそう言って頭を下げると、祖父は無言で横を通り過ぎる。

 そして、俺の後ろで立ち止まった祖父は、振り返らすにこう言った。


「あまり深入りするな。それは、後で辛くなるだけの行為だ」


 ――祖父からの、忠告。

 それは偉大な先人からの、()()()()()を減らすための言葉だった。

 けれども、俺はその忠告を無視する。


「それでも、俺は自分なりのやり方を模索しながらやっていきます」


 今のままのやり方では、何も変わらない。

 どうすれば、変わるのかはわからないけど、自分で考えた()()をやっていこうと決めたんだ。

 命を奪う責任から逃げないこと、彼らのことをしっかり知ること。

 まずは、そこから始めようと思ったのだ。

 俺も祖父の方を振り向かずにそう言ってその場を去る。

 そして自室に入ると、ふぅと一息吐いた。


「なんか、おじい様にあそこまで逆らったのって初めてな気がする」


 そして俺は持ってきた荷物を静かに壁に立てかけると、執務室の椅子を引っ張りだして座り、机の上にノートを広げる。

 ノートに書き記し、纏めるのは先ほどまで聞いてきたアクセル・マフタンのことだ。

                      

 彼の罪を、司法省はこう判決したのだ。

 ――復讐殺人による殺人罪だと。

                                  

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