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命断つ剣に約束の花束を  作者: 宇奈木 ユラ
第二章 彼を待つ剣
34/112

幕間No.01 『”迷信”の脱却から始まる現代医学史(1998年)』

                                                

 第三章 中世医学史の特異点

                                              

 (中略)                     

 今から約200年ほど前、その頃の医学というのはまだ根拠のない迷信や呪術的要素が多くあった。

 溺れた人を蘇生させるのに、肛門から煙草の副流煙を吹き込む。

 片頭痛の治療に、こめかみに焼鏝(やきごて)を押し付ける。

 現代の医学を知っている者からすると、卒倒しかねない暴挙がれっきとした『医学』として行われていたのだ。

 しかも、これらの行為を行っていたのが、ルーレンスの医師であることを知っているか。

 ルーレンスと言えば、その当時から発展した文化を持った国であったことが有名であったが、その実態はこれであった。

 (中略)

 では、ルーレンスの医学はどこから正常な現代に近いモノとなったのか。

 実は、例外的な医師がいたのだ。

 その医師の名は、シャルル・ルテル。

 彼の施す治療は、非常に理にかなったモノであった。

 彼の家系は、代々医師の家系ではあったが、「貴族も平民も分け隔てなく」という方針を取っていたため、他医師たちからは嫌煙されていたという異端の家系であった。

 その為、医師たちの間で共有される知識や情報から外されることが多かった。

 だが、それでもルテル家は医師としての活動を諦めなかった。

 新しいことを知る機会から遠ざけられるのならと、独自の方法で医学の研究をはじめたのだ。

 それは、当時禁忌とされていた遺体の解剖だった。

 死刑執行人と懇意の関係になり、彼らが処刑した遺体を秘密裏に解剖し、独自の知識を吸収していったのだ。

 その解剖による結果をフィードバックさせた医術は、実に理にかなったモノだったということが、シャルル・ルテルが残した研究ノートで明らかになった。

 事実、当時のルーレンスで他の医師のもとで手遅れや治療を断られた患者が、シャルル・ルテルの治療によって助かったということが多くあったらしい。

 医学会から村八分の扱いを受けた結果、そのような医術を身に着けるというのは何という皮肉だろうか。

                                     

 (中略)

                                  

 その為、結果としてシャルル・ルテルの医療術が、神聖ルーレンス王国で認められることはなかった。

 彼の存在はある意味では特異点だったのだ。

 シャルル・ルテルが評価されたのが、彼の没年から数年後。

 それもルーレンスじゃなく、隣国のギルクスだった。

                                                                                                                                                             

 ――著:朝倉 信一郎

  『”迷信”の脱却から始まる現代医学史』(出版:1998年3月16日)より抜粋。

                                                       

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