CT.31 選択した未来(Ⅰ)
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明るい満月が、眩しいくらいに闇を照らす夜。
俺はなかなか眠りにつけないでいた。
それは、田舎の夜が思いのほか長いからか。
それとも、都会の空より明るすぎる月のせいなのか。
「――いいや、違うな」
俺はベットから身を起こしてそう呟く。
あれから、ロマンさんから話を聞いてから。
ずっと何か、もやもやしたものが、胸の奥で渦巻いていた。
暗いこの場所で一人でいると、そのもやもやがどんどん大きくなっていくような気がした。
ここにずっといるのは、ちょっと嫌だな。
そう感じた俺は、ベットから起き上がり当てが割れた客室を抜け出した。
少し外の空気でも吸おう、そう考えて外に出る。
扉を開けて出ていくと、そこには初夏の夜独特の清々しい空気と静けさがあった。
なんとわなしに大きく背伸びをすると、俺の足は自然とある方向へ向かいだした。
何となく、そう、何となくだが、あの花を見に行ってみようと思ったのだ。
屋敷の裏、そこにある花壇へ向かって歩く。
そして、屋敷の角を曲がったところで――。
「――エド。君も眠れなかったのかい」
そこには意外な人物がいた。
「シャルル」
「僕もなかなか寝付けなくてね。ちょっとここで花を眺めていたんだ」
花壇の前、屋敷の壁際に設置されていたベンチに座ったシャルルは俺にそう言った。
どこか物憂げな表情を浮かべている彼の元に歩いていき、そっと隣に腰かける。
そのまま、俺たちは会話なく黙ったまま月明かりに照らされた風鈴草を眺める。
銀色の月明かりに照らされて闇夜に浮かび上がる紫色の花々は、昼間に見せた生命力あふれるような生き生きとした姿とは違う、少し幻想的な美しさがあった。
そんな中、最初に口を開いたのはシャルルだった。
「ロマンさんの話を聞いて、僕はすごく嫌な気持ちになった」
そこからシャルルは少しづつ言葉を紡ぐ。
「僕は、エドの事をそんな目で見たことがなかったから、ジュワユーズ家が――処刑人の家系が周りからどんな目で見られているかなんてわからなかった。――いや、知識として知ってはいたんだけど、実感としてちゃんと理解なんてしていなかった。だから、あの話を聞いて嫌な気持ちになったんだ」
「――シャル」
「ごめん、エドワード。僕は君の友達でいながら、本当の君の苦しみなんて理解していなかったんだ」
悲痛な表情で、シャルルは俺に頭を下げようとして俺はその肩を慌てて掴んで押し戻す。
「やめてくれシャル! 俺はそんなこと気にしていない!」
そうやって謝ろうとするシャルルを止める。
ジュワユーズ家の風評は、シャルルには関係ない。
そんなことで、シャルルに嫌な思いはしてほしくなかった。
――だからこそ、俺は話そうと思った。
ロマンさんの話を聞いて、俺は何を決めたのかを。
「シャルル、俺はジュワユーズ家を継ぐ。――処刑人になると決めたよ」




