ACT.2 死神の子(Ⅱ)
「――え?」
今、シャルルの言った言葉の意味が、祖父の言葉の意味が、一瞬理解できずに困惑する。
死体を引き渡す。 ーー何の話をしているのか、俺には理解できなかった。
愕然とする俺とは違い、シャルルの様子は、実に落ち着いた雰囲気で話を受け止めていた。
つまり、彼はこの話を前もって知っていたということに他ならない。
「うむ、エドワードにこの話をすることは初めてだったか。 我が家、ジュワユーズ家がどういう家系なのかわかっていような」
「はい、おじいさま。ジュワユーズ家は、その処刑人の家系です」
「では、その仕事は理解しているな」
祖父の言葉に、俺は黙って頷く。
処刑人の仕事は、罪人の処刑だけにあらず。
その仕事には、鞭打ちをはじめとした軽犯罪を犯した者への刑罰も含まれる。
「処刑した死体。これをどうするかは担当した処刑人に一任されているのは知っているか」
「い、いえ」
そう言って俺は俯く。
事実、そのことは知らなかった。
てっきり、それにはそれ専門の人たちがいるのだと思っていた。
そして、俺はその事に酷い不快感を感じた。
ーーあぁ、この国の人たちはこんな事さえ、俺たちに押し付けるのかと。
「故にジュワユーズ家では、儂の代からソレを有効に活用することを決めた」
有効活用。
忌むべきソレを何かに使うという発想に違和感を感じる。
そこまで祖父が話したところで、今度は傍に控えていたルテル氏が口を開く。
「有効活用というのは、医師をしている私が引き取り解剖をするということなんだ」
「かい、ぼう?」
「そう、遺体を切って分解して、身体を調べるということなんだ」
ルテル氏の言葉を聞いて、俺は思わず眼を見開く。
それは、酷く罪深い事では無いのか。
死した人を、辱める事では無いのか。
あまりの衝撃に、身体が震える。
「そ、それはっ!」
「私の息子であるシャルルと、次代のジュワユーズ家当主たる君にも、この契約を継続して欲しくて、今日この場に呼んだんだ」
「嫌だっ!!」
その言葉を聞いた時、俺は反射的に否定の言葉を吐いた。
我慢なんて出来なかった。
今この瞬間、ここにいて、平然と話をする大人たちが信じられなかった。
なんで、なんで――。
「――っ!」
「あ、エドワード君!?」
そして俺は、ルテル氏の制止を振り切って、その部屋を飛び出した。
――どうして、どうして。
俺は泣きながら走った。
理解なんて出来なかった、したくなかった。
だから、とにかく走った。
追いつかれたくなかったのだ、恐ろしい運命に。
――まだ俺には、重い理に立ち向かう覚悟なんて、できていなかった。